暮らしに役立つ医療のおはなし 19

便秘と下痢(その1) わたひき消化器内科クリニック 綿 引 元

 便秘や下痢は、日常的にしばしば見られる症状であり、皆さんもたびたび経験されていることでしょう。前号でご紹介した過敏性腸症候群以外にも便秘や下痢を来す病気はいろいろあります。今回より数回に分けて、便秘と下痢を中心に、皆さんがほぼ毎日つきあう「便」についての話をご紹介していきます。

■食べ物の旅は、順調なら1〜2泊。大腸で便になります
 口から肛門までは、「消化管」と呼ばれる一本の管になっています。この「消化管」は栄養素の消化と吸収という大切な役割を担っています。
 口から入った食べ物は、食道、胃、十二指腸、小腸を経て、大腸に達し、1日から3日後には肛門から便として排せつされます。
 口の中で食べ物はだ液と混ざり、嚥下(食べ物を飲み込む)により食道を通過し、胃へ送られます。胃で食べ物は胃液と混ぜ合わされ、かゆ状になり、十二指腸に送られますが、十二指腸では膵液(膵臓から分泌される消化液)、胆汁(肝臓から分泌され胆のうに蓄えられる消化液)と混ざり、吸収されやすいように分解されます。さらに、消化液と混じりあった食べ物は、小腸で液状になり、栄養素と大部分の水分が吸収されます。栄養素が吸収された食べ物の「かす」は小腸を出ると、まず盲腸にためられます。次に、大腸全体の収縮運動によりS状結腸に送られていきますが、その間に水分などが吸収されて、固まります。一時的に、S状結腸にためられてから、直腸へ移動し、ついで肛門に達します。

■便は健康のバロメーター 
  消化吸収がすんで、からだに不要になった残りかすや脱落した消化管の粘膜、腸内細菌などでできたものが便です。便の色、形、量などから、腸の状態、さらには、私たち自身の健康状態や病気の状態を知ることができます。
 

■便の色について(白、黒、赤は要注意)
 
黄色(黄土色から茶色)が正常な便の色で、胆汁色素による色です。なお、食物繊維をたっぷりとると黄土色の便になります。
●白っぽい便
 肝臓や胆のうの病気のなかで、胆汁が出ない病気(黄疸がでる病気)では、便の黄味が減って灰白色になります。また、白い便は、膵臓の病気や消化不良などで、脂肪の吸収不良や粘液が多く混入する場合にも見られます。
●黒っぽい便
 胃潰瘍などで胃から出血すると胃酸により血液が黒くなることから、黒色の便(タール便)になります。肉類の多い食生活や便秘が続いている時にも黒っぽい便になることがあります。また、貧血の治療で鉄剤を服用すると真っ黒な便が出ます。
●赤っぽい便
 大腸からの出血では赤黒い便が出ますが、この場合には、大腸癌や直腸癌、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患が疑われます。さらに、肛門に近いところで出血があると血液と同じ赤い色の便や血液そのものが排出されます。

■便の形について
 
便に含まれる水分の量によって、便の形が決まります。便が大腸内に長くとどまると、水分は大腸でよけいに吸収されて、硬くなります。健康な便の水分量は70〜80%で、すっきりと排便をすることができます水分量が80%以上になると軟らかい便になり、90%をこえると水のような便になります。便秘の場合は水分量が70%未満になり、ウサギの糞のようなコロコロした硬い便になることもあります。

■便の量について
 
便の量は、食事の量や排便の回数により異なりますが、理想的にはバナナ1〜2本程度です。特に食物繊維をとる量が多いほど、便の量は多くなります。肉類を中心にした食事をしている欧米人は便の量は少なく、日本人は食物繊維の摂取量が多く、便の量も多いと言われていました。しかし、最近は食習慣の西欧化で、便の量も欧米人に近づいてきており、同時に大腸癌が増えてきているのが気になるところです

 
次回は、便秘についてお話します。






発行/萩野原メディカル・コミュニティ