暮らしに役立つ 医療のおはなし 26
肺気腫について(2) やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次

 今回からは、肺気腫になった時の肺の状態と症状を詳しく見ていきます。


■肺気腫の肺 その1
●肺気腫の特徴(1)
肺胞の壁がこわれ、たくさんの空気がたまった状態
 肺気腫の患者さんの肺は、肺胞がこわれた状態になっています。ブドウの房状に集まった肺胞を輪切りにしてみると、図-1のように周辺部分には大きさのそろった小さな肺胞(正常部分)がありますが、中心部分では肺胞と肺胞の壁がこわれ大きな空間になってしまっていることがわかります。
 これを模型で現すと図-2のようになります。左の正常の肺では気管支の先に粒ぞろいの小さな球(肺胞)がたくさんついています。ところが、右の肺気腫の肺では一部が大きな球になってしまっています。
 肺気腫の肺は肺胞の壁がこわれて大きな空間がたくさんできているので、正常の肺と比べると膨れており、肺の中にたくさんの空気がたまった状態になっています。レントゲン写真をとってみると、肺は黒っぽく写りますが(図-3)、右の肺気腫の患者さんの写真では、肺が膨らんで縦に長く大きくなっているのがわかります。
 肺気腫という病気の第一の特徴は「肺胞の壁がこわれ、たくさんの空気がたまった状態」と言うことができるわけです。
 このように肺胞が壊れてしまうと、元に戻ることはありません。肺気腫と初めて診断された患者さんから、「どうしたら治るのか?」とよく聞かれますが、残念ながら、肺気腫になった肺を正常な肺に戻すことはできないのが現実です。
 しかし、絶望したり、あきらめてしまうことはありません。大切なのはこの傷んだ肺を守っていくことです。残った肺の働きを維持していくために、的確な治療をし、生活習慣を整えていくことになります。今ある事実を受け止め、積極的な努力を続けることで、今より悪くなることを防ぐことが何よりも大切なのです。

●肺気腫の特徴(2)
肺胞での二酸化炭素と酸素の交換が悪くなる
 人間は生きていくのに食べ物が必要です。でも食べただけでではだめで、食べ物の中の栄養分と酸素が身体の中で反応してエネルギーを生み出すことが必要です。このエネルギーで心臓や筋肉や腸などが動いています。
 エネルギーを生み出した後にできる老廃物が二酸化炭素と水です。水は尿として捨てられ、二酸化炭素は肺から捨てられます。吐いた息の中にはたくさんの二酸化炭素が含まれています。肺の働きは、全身から肺に戻ってきた老廃物である二酸化炭素を身体の外に捨て、空気中の酸素を血液の中に取り込み全身で利用してもらうことです(図-4)。
 枝分かれした気管支の先には肺胞があって、その数は肺全体で約3億個と言われています。その肺胞をきれいに網の目のように血管が包み込んでいて、初めて二酸化炭素と酸素の交換が可能となります(図-5)。肺胞に空気が入ってきても、そこに血液が流れていなければだめですし、逆に血液が流れてきても、空気が入ってこなければ、やはり二酸化炭素と酸素との交換はできません。肺胞が網の目のように血管で包まれているという構造が大切なのです。肺気腫の肺では、この構造がこわれているために二酸化炭素と酸素との交換が悪くなっているのです。これが、肺気腫の第二の特徴です。(つづく)




発行/萩野原メディカル・コミュニティ