暮らしに役立つ 医療のおはなし 26
肺気腫について(3)やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

 前回に引き続き、肺気腫になった時の肺の状態と症状の特徴をご紹介します。

■肺気腫の肺 その2
●肺気腫の特徴(3)
 気管支の断面は、図-1のようになっています。右側は太い気管支の断面です。太い気管支には軟骨があって、外から圧迫されてもペチャンコになりません。左側は細い気管支の断面です。ここには、軟骨がありません。息を吐こうとすると気管支は圧迫されます。そうしたら、すぐにペチャンコになって息が吐き出せなくなってしまいそうです。しかし、正常の肺ではそんなことは起こりません。
 細い気管支のまわりには肺胞がたくさんくっついています。肺胞は風船のようなもので、放っておけばシュッと縮んでしまいます。気管支のまわりの肺胞が縮もうとするので、気管支の壁は常に外側に引っ張られています。この「肺胞が気管支の壁を外側に引っ張る力」が気管支がペチャンコになるのを防いでいてくれるのです。
 ところが、肺気腫の肺では、この大切な肺胞がこわれているので、気管支を広げる力が弱くなっています。これを模型で表すと、図-2のようになります。正常の肺では、気管支をバネのように強い力で広げていますが、肺気腫ではこのバネの力が弱くなっています。このために、肺気腫の肺では息を吐こうとすると気管支が簡単につぶれてしまい、吐き出せなくなってしまうのです。
 正常な状態では、息を吐く時に空気は細い気管支をスーッと流れていきます(図-3)。しかし、肺気腫の肺では、息を吐いている途中で細い気管支が閉じてしまい、肺胞に沢山の空気が残ってしまいます。そのために、息を吐き出しにくくなってしまうわけです。これが、肺気腫の第三の特徴です。

●肺気腫の特徴(4)
横隔膜が動きにくくなっている
 横隔膜は息を吸う運動の主力となっています。図-4は胸の壁を内側から見た図です。正常の人では横隔膜は上向きに凸のドーム状になっています。
 呼吸する時の動きを模型で表すと図-5のようになります。息を吸う時はドーム状の横隔膜が下にさがってきます。すると胸が広がるので、それにつられて肺も広がり、空気が自然に肺の中に入ってきます。息を吐く時は、この横隔膜が上にあがって肺が縮むため空気が外に出ていきます。呼吸運動ではこの繰り返しを行っています。
 ここで大切なのは、横隔膜がドーム状になっていることです。もし平らになっていたら横隔膜は動きにくくなってしまい、肺を広げて空気を吸い込む力は弱くなってしまいます。
 図-6は、前回も紹介した肺のレントゲン写真です。黒く写った肺と白く写った腹の境目が横隔膜です。正常な肺では、境目の線(横隔膜)が上向きに凸の曲線になっていますが、右の肺気腫の写真では直線に近くなっています。肺気腫の人の場合は、肺が膨らみ過ぎて元々ドーム状だった横隔膜を下に押しさげ、平らにしてしまっています。そのため、横隔膜が動きにくくなり、空気を吸い込みにくくなってしまうのです。

●肺気腫の特徴(5)
慢性気管支炎 気管支喘息の合併が多い
 肺気腫の患者さんには、息苦しいだけでなく咳や痰が出るという方が多くいらっしゃいます。
 肺気腫の患者さんは、肺胞がこわれているだけでなく、太い気管支も傷んでいることが少なくありません。繰り返すタバコの煙の刺激で気管支の粘膜が腫れあがり、粘液などをつくる分泌線も過剰に発育しています(図-7)。こうしたことが原因となって、慢性的な咳や痰といった症状が出てくるのだと言えます。(つづく)



発行/萩野原メディカル・コミュニティ