暮らしに役立つ 医療のおはなし 30
肺気腫について(4)やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

 肺気腫の治療では、何よりも禁煙が最初の一歩になります。最後に、禁煙の重要性と肺気腫の治療についてご紹介します。

図-1 喫煙による肺機能(1秒量)の低下状況
(Fletcher 1977)
■禁煙の意義
 肺気腫のほとんどの方の原因がタバコです。毎日毎日20本、30本と吸い続けたタバコが、年月をかけて少しずつ肺をいためつけてしまったのです。「どうせ治らないんだから、死ぬまで吸い続けよう」とおっしゃる方もあるかもしれませんが、それは正しくありません。あきらめるのは少し早すぎます。今からでも遅くありません。タバコをやめれば残された人生に必ず良い影響がでてきます。
 図-1は、喫煙により肺機能の低下の状態を、タバコをやめた場合と吸い続けた場合で比較したものです。縦軸になっている「1秒量」とは、一秒間という短時間に吐き出せる空気の量のことです。肺気腫の方は、この値が小さくなっています。値が小さくなればなるほど、呼吸困難等の症状が悪化しているということです。したがって、それをくい止めることが非常に大切になります。横軸は年齢です。1秒量は25才頃がピークで、年をとるにつれて、老化現象として少しずつ減少してきます。老化現象はすべての人に起こることですので、誰でも1秒量は必ず減ってきます。
図-2 喫煙と生存状況
(Postma DS 1989)
 タバコを吸っていない人の場合、ゆるやかに下がってきます。一方、タバコを吸っている人では、2つのタイプの方がいます。1つは、タバコの影響を受けて1秒量が急速に減ってくるタイプ、もう1つはタバコの影響をあまり受けず、1秒量の減少の速度がタバコを吸っていない人たちとほぼ同程度というタイプです。10人のうち8〜9人は、タバコの影響を受けにくいタイプです。残りの1〜2人の人たちがタバコの影響で急速に1秒量が減少し、肺気腫になっていくのです。
 ここで大切なのは、今まで長い間タバコを吸い続けていた人でも、禁煙をすれば、急速な1秒量の減少に歯止めがかかり、それから後はタバコを吸っていない人たちと同じようにゆっくりと減少していくということです。日常生活を楽に送れない障害者の線まで1秒量が減少してしまう年齢を、禁煙によってずっと先に延ばすことができるのです。
 また、図-2を見てもわかるように、タバコの悪影響が出てから禁煙した人たちの方が、喫煙をやめなかった人たちよりも長生きしています。肺気腫と宣告されてからも、途中で禁煙すればそれだけ楽に生活を送れる期間が長くなり、長生きもできるようになるということです。

■禁煙はクリニックにご相談を
 禁煙の意志が固まったら、さっそく始めましょう。禁煙を始めるとイライラしたり、集中力がなくなったりという「ニコチン離脱症状」が出現しますが、ニコチンガムやニコチンパッチなどを使用するとこうした症状は非常に軽くなり、禁煙の成功率が上がります。ニコチンガムは薬局で購入が可能ですが、ニコチンパッチは医師の処方が必要です。

■肺気腫の治療
 禁煙に加えて、以下のような治療を行うことで、呼吸困難や咳、痰などの症状を軽くしていきます。
(1)薬による治療
(a)短時間作用型ベータ2刺激薬…メプチン、サルタノールなど
(b)長時間作用型ベータ2刺激薬…セレベント、ホクナリンテープなど
(c)抗コリン薬…テルシガン、スピリーバなど
(d)メチルキサンチン;テオドール、フレムフィリン、ユニフィルなど
(e)吸入ステロイド;フルタイド、パルミコート、キュバールなど
(f)経口ステロイド;プレドニン、リンデロンなど
(g)喀痰調整薬;ムコダイン、ムコソルバン、スペリアなど
(2)呼吸理学療法
 口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法を学んだり、筋力を強化したり、肋骨の動きをよくしたりすることなどで、身体を動かしたときの息切れを軽くすることができます。
(3)在宅酸素療法
 肺気腫が進行して重症化し、酸素不足の状態となると、酸素吸入が必要となります。開始時期のおおよそのめどは、指で測定する「酸素飽和度」が90%以下にまで下がった時点です。酸素吸入をした方が、呼吸が楽になるだけでなく長生きできることが明らかになっています。

 治療の内容は病気の重さによって異なります。
●軽症…仕事や運動を始める前や息切れを感じた時に短時間作用型ベータ2刺激薬を使用します。
●中等症〜重症…短時間作用型ベータ2刺激薬に加えて、その他の薬物療法が必要となります。また、呼吸理学療法を行い呼吸法や運動療法などの訓練と学習が必要となります。
●最重症…上記の治療に加え、多くの患者さんでは在宅酸素療法が必要となります。

 以上、4回にわたって肺気腫の症状と治療についてご紹介しました。禁煙と治療によって、今の状態を長く維持できるよう、クリニックと患者さんの二人三脚でがんばっていきましょう。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ