暮らしに役立つ 医療のおはなし 43
肺非結核性抗酸菌症  やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

 結核と似た症状を持つ病気に、肺非結核性抗酸菌症があります。土や水の中のような自然界に存在する菌が肺に感染しておこるもので、感染性はありませんが、薬が効きにくく、完治しにくいという特性を持っています。今回は、意外と知られていない肺非結核性抗酸菌症について詳しくご説明します。
図-1 赤く染色された菌が抗酸菌


(1)非結核性抗酸菌(ひけっかくせいこうさんきん)
 肺にはさまざまな細菌が感染します。細菌を調べる時には、痰などをスライドグラスという薄いガラス板に塗り、何種類かの薬液をかけて染色します。細菌の中には、一度染色されると酸などで脱色されにくい菌があり、こうした菌を抗酸菌と呼んでいます。(図-1)

 抗酸菌には多くの種類がありますが、「結核菌」とそれ以外の「非結核性抗酸菌」の2つに分類されます。
 非結核性抗酸菌が肺に感染した状態を肺非結核性抗酸菌症といいます。人に病原性のある非結核性抗酸菌には10種類以上がありますが、MAC菌(マイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ)による肺感染症が圧倒的に多く約8割を占めています。カンザシ菌1割程度で、その他の菌が1割です。

図-2
(2)症状と治療方法
 肺非結核性抗酸菌症は、通常の細菌性肺炎のように急に高熱や咳や痰が出て数日のうちに症状が悪化することは少なく、長期間にわたって咳・痰が持続し、微熱や血痰を伴うこともあります(こうしたゆっくりした病気の進行は肺結核の症状に似ています)。病気が進行すると息切れ、喀血、発熱、食欲不振、やせなどが現れてきます。一方、ほとんど症状がなく健康診断で肺の異常陰影を指摘され、精密検査によってはじめて診断される場合も少なくありません。
 診断のためには、胸部レントゲン写真やCTといった画像検査と菌の検査が行われます。肺に小さなつぶ状の影が多発し気管支が拡張することが多く、空洞を伴った腫瘤が見られることも少なくありません。(図-2)。
 菌の検査では、通常、痰をなんどか調べます。診断のためには2回以上非結核性抗酸菌が培養されることが必要です。痰が出ないときには気管支鏡検査を行い、病巣から組織や痰を採取することが必要になることもあります。

(3) 肺結核との違い
 肺非結核性抗酸菌症は、レントゲンの影が肺結核と似ています。そして、顕微鏡で見た時はどちらの菌も図-1のように赤く染色される菌が見えるだけで、区別はできません。昔は、本当の結核菌なのかが判明するまでに数ヶ月を要していました。現在ではPCRという遺伝子診断法があり、MAC菌であれば数日で結核菌と区別することが可能となっています。
 非結核性抗酸菌は、土や水などの自然界に存在している菌で、肺結核のように人から人へ感染することはありません。ですから、肺非結核性抗酸菌症と診断されたからといって隔離される必要もなく、家で療養を続けることが可能な病気です。
 肺結核とのもう一つの違いは、薬が効きにくいことです。

(4)治療
 MAC菌による肺非結核性抗酸菌症の一般的な治療では、クラリスロマイシンと結核治療にも使用されるリファンピシンとエタンブトールを併用し、ストレプトマイシンを加えます。肺結核の場合は薬の治療でほとんどの患者さんは治りますが、肺非結核性抗酸菌症では症状、レントゲン、排菌状況の改善は50%程度に過ぎず、いったん改善がえられても治療終了後の経過観察中に再び悪化してくることが多いのが現状です。薬が効きにくいだけに、規則的な生活リズム、十分な睡眠と休息、バランスの良い食事など健康的な生活を心がけることが大切です。そしてもし他に併発する病気(糖尿病など)があれば、その治療もしっかり行うことが病気の進行にブレーキをかけるために重要です。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ