暮らしに役立つ 医療のおはなし 48
メタボリックシンドローム(その3)
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


 わが国において、糖尿病の患者数は年々増加の一途をたどっており、中高年においては国民の4〜5人に1人は糖尿病にかかっているといわれています。この糖尿病をはじめとする動脈硬化性疾患にとって大きな問題になっているのが「メタボリックシンドローム」です。
 メタボリックシンドロームは、過食や運動不足など日常の生活習慣を背景にして、高血糖・高血圧・高脂血症など多くの危険因子を呼び覚まし、これらがお互いに重なりあうことにより、心筋梗塞や脳卒中に至らしめる症候群です。
 心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患は、働き盛りの人々を突然襲い、死を免れたとしても大きな障害を残します。ここで最も大切なのは、過食(飽食)や運動不足による内臓脂肪の蓄積を減少させるために、皆さんが自発的に、そして積極的にライフスタイルを変革していくことです。
 メタボリックシンドロームは内臓肥満(内臓脂肪の蓄積)が背景にあり、高血糖・高血圧・高脂血症を誘発すると考えられています。そのキーポイントは、内臓脂肪蓄積により発症するインスリン抵抗性と呼ばれる特性で、種々の病態に進展します。その中心となる糖尿病については前回に解説しましたので、今回は高血圧について解説していきます。

■メタボリックシンドロームと高血圧
 メタボリックシンドロームは過食、運動不足などの生活習慣が関与するいくつかの病態を含み、高血圧もその一因として重要になります。このため最近の主要な高血圧治療ガイドラインでは、メタボリックシンドロームを意識した記載がなされています。高血圧に関しては山下先生が詳しく解説していますので、ここでは簡潔にお話しします。
 メタボリックシンドロームに伴う高血圧の降圧目標値は130/85mmHg未満を目指します。治療の原則は、食事・運動療法による内臓脂肪型肥満の是正にあります。このために生活習慣の改善を実施し、必要があればインスリン抵抗性を改善する降圧薬(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与を行います。
 生活習慣では摂取カロリーの制限による減量と運動不足の解消を図ることが大切です。減量はBMI25未満と腹囲も正常域(男性85cm未満、女性90cm未満)を目指すことです。運動は早歩き、ジョギング、水中歩行などを1日30分から1時間、できるだけ毎日行いましょう。
 一方、肥満者における高血圧の頻度は非肥満者の2〜3倍とされています。特に若年期からの体重増加が高血圧発症の重要な危険因子となります。肥満を伴う高血圧は、成因に交感神経系、ナトリウム貯留/食塩感受性、インスリン抵抗性の関与が指摘されていますが、治療抵抗性高血圧であることがまれではありません。また、肥満者では睡眠時無呼吸症候群を伴うこともあり、この睡眠時無呼吸症候群が高血圧の発症や増悪の原因になることがあります。
 肥満者の降圧療法にあたっては、肥満に併存しやすい心血管疾患の危険因子を改善させるために、食事療法と運動療法による減量が行われます。減量指導後も降圧不十分なら薬物療法を導入します。

◆食事・運動療法など生活習慣の改善が第一選択
■血圧管理について
 最近、従来の外来での随時血圧に比較して、24時間血圧や家庭血圧の重要性が証明されてきています。

(1)24時間血圧・・・丸1日24時間、連続的に測定する血圧値
 血圧は昼間上昇し、夜間に下降するというのが基本的変動パターンですが、24時間血圧測定は昼夜血圧変動パターンの検討、早朝高血圧の診断、白衣高血圧の確認などの利点があり、外来随時血圧より臓器障害と密接に関連しています。

(2)家庭血圧・・・自宅でリラックスした状態で定期的に測定する血圧値
 家庭血圧は、統一された条件の下で長期にわたり測定し、早朝高血圧や白衣高血圧の確認に用いることで、外来随時血圧に比べてよく臓器障害を反映するといわれています。メタボリックシンドロームの診断に用いる家庭血圧の判断基準は明らかにされていませんが、これからは積極的に家庭血圧を測定してみてください。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ