暮らしに役立つ 医療のおはなし 52
メタボリックシンドローム(その5)
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


肥満と消化器疾患(2)
 前回は脂肪肝について述べましたが、今回も肥満と関係のある消化器疾患について述べていきます。内臓肥満は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心血管障害などのいわゆる生活習慣病のほかに、さまざまな消化器疾患にも深く関わっていることがわかってきました。
 肥満が胃食道逆流症のほかに、バレット食道、食道腺癌、胃噴門部癌の危険因子であるといわれています。また、胆石症なども肥満と関わりの強い疾患です。さらに、大腸ポリープや大腸癌、膵臓癌も肥満によるリスクが高くなることが知られています。

*バレット食道
 バレット食道とは、食道と胃の粘膜が接合した部分で、食道粘膜(扁平上皮)が胃粘膜に置き換わる状態を云います(円柱上皮化する)。この部位が、食道腺癌の発
生母地として注目されていますが、わが国での頻度は少ないです(通常の食道癌は扁平上皮癌ですが、バレット食道に出来た食道癌は腺癌です)。

図-1/逆流性食道炎の内視鏡的所見
(1)軽症の逆流性食道炎症
(2)重症の逆流性食道炎症
■肥満と胃食道逆流症
 胃食道逆流症(GERD)は「胃内容物の逆流によって不快な症状あるいは合併症を起こした状態」を云います。食生活の欧米化とともに、わが国ではGERDが増加しており、その頻度は欧米に迫る勢いです。肥満とGERDの関連性は欧米からの報告がほとんどですが、
BMIが30以上の場合20%にGERDが認められたとされています。その傾向は、時代とともに青少年や成人男子において顕著となっています。内臓脂肪の蓄積が腹腔内圧の上昇と、胃を圧迫することによる胃内圧の上昇をもたらし、胃酸の逆流がおきてGERDが生じます
 肥満に関連する過食と高脂肪食で胸やけ症状の頻度が高まり、体重の減量によりGERDが改善すると考えられています。
表-1/逆流性食道炎の問診票 皆さんは表にあげる症状がありますか?
 逆流性食道炎は、胸やけ症状と逆流感が典型的な症状ですが、喘息、慢性咳嗽、咽頭痛、非心臓性胸痛などの食道外症状があることも知られています。表1のような問診票にて拾い上げ診断が出来ますが、わが国では胃癌などの悪性疾患の合併が多いことから、内視鏡診断が必須です。逆流性食道炎の内視鏡診断は食道粘膜の炎症性障害を確認することですが(図-1)、内視鏡の観察では正常に見える症例でも組織学的に異常を認めることもあります。
 なお、胃癌や萎縮性胃炎とBMIの関係は明らかではありません。

★ BMI (body mass index:体格指数)とは
肥満の判定に国際的にBMIが用いられていますが、国により判定基準が異なり、WHO基準ではBMI25〜30は過体重で肥満に至っていないと判断するが、わが国ではBMI 25以上を肥満としています。(米国ではBMI 30以上の場合を肥満と判定しています)BMIは、体重(kg)/身長(m)2で算出します。

■肥満と胆石
 古くから胆石症発症の背景として、40才以上で肥満の女性が特徴的です。わが国では肥満と関連するコレステロール結石の頻度は欧米に比べて低く、胆石全体の50〜60%と報告されています。また、胆石症では生活習慣病の代表的疾患であるメタボリックシンドロームの中核となる糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの合併率が高いこともわかっています。
 メタボリックシンドロームに代表される過食と運動不足など生活習慣を基盤に発症してくる病態が、コレステロール結石の形成過程に影響を及ぼします。肝臓でのコレステロール生合成の増加、胆汁中へのコレステロール分泌促進などを惹起し、円滑なコレステロール代謝あるいは排泄過程を阻害します。また、肥満のある高インスリン血症は胆嚢の収縮機能を低下させ、結石形成を助長するといわれています。 



発行/萩野原メディカル・コミュニティ