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暮らしに役立つ 医療のおはなし 60

老化と健康 (その2)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

老年病は老化と関係しており、老化により「ホメオスタシス(恒常性)」が失われ、病気になりやすい状態と云えます。身体は外部からのストレスや内部の変化に対して、一定の状態を保つことが出来ます。寒い山中でも体温を下げない、炎天下でも体温を上げない、食事をしても血糖をあまり上げないなど、健常な人が元来備えた調節機構により「恒常性」を保ちます。老化により恒常性が失われると、体温を平温に保つ反応が低下するために、外界の気温が著しく上がったり、下がったりすると、熱中症や低体温に陥りやすくなります。  老年病はただ高齢者に多い病気と云うだけでなく、共通した特徴があり、高齢者は一人で多くの病気を抱えています。老化に伴いいろいろな臓器の機能が低下し、臓器の予備能が少なくなりますので、同時に複数の臓器の機能が障害されることがあります。肺炎などの感染症、胃や腸などの手術、骨折などの外傷を来した場合に、二つ以上の臓器が同時にあるいはつぎつぎに機能不全に陥り(多臓器機能障害症候群と云われています)、死に至ることがあります。若い健常者であれば命に関わらない病状でも、老年病では厳重な医学的な管理が必要になります。

■老年病の特徴

高齢者の病気には、共通した特徴があります(表1)。  高齢者では予備能が乏しく、免疫力・適応力・回復力が低下しているため、ささいなことで病気になりやすいと云えます。さらに、脳卒中の後に肺炎を起こしやすいなど、他の病気がもとの病気に引き続いて発症するのが高齢者の病気の特徴であり、合併症の発生に対する注意が特に重要になります。  脳卒中では意識障害を起こすことがしばしばありますが、心臓病、糖尿病、肺炎、脱水症などでも、高齢者では意識障害を伴うことがあります。  重篤な感染症でも発熱を伴わないこと、心筋梗塞による胸が締め付けられるような痛みなどの典型的な症状が軽いことなど、高齢者に現れる病気の症状は教科書的ではないことから、重大な病気を見逃すこともあります。また、予備能が乏しくなっていることや典型的な症状が乏しいことから、病気が小康を保っているように見えても、急変することが多いので、油断できません。  暑い季節になりました。散歩などの運動、草取りや農作業などで汗をかきますので、十分に水分の補給をしてください。高齢者は、汗をかかなくても、口の乾きがなくてもこまめに水分を摂ることが大切になります。人の体重の約60%は水分です。加齢に伴い高齢者では細胞自体の水分が減っていることから、脱水がおこりやすいので注意が必要です。さらに、脱水により意識障害が出現、脳卒中や心筋梗塞などが誘発されます。  高齢者では体内での薬の分解(肝臓の機能)や排泄(腎臓の機能)の機能も低下しており、薬の副作用が現れやすいと云えます。薬の副作用のうちでも、高齢者ではふらつきや眠気などの精神症状や神経症状の出ることが多く、注意が必要です。  さらに、一人暮らしや経済的な不安定性など、高齢者の社会的あるいは経済的な背景が老年病の予後に影響します。介護者(キーパーソン)、家族、居住状況、経済的状況など高齢者を取り巻く社会環境の側面を把握することが重要になります。

■老年病に特有の症状

高齢者に特有の症候があり、これらのいくつかが組み合わさったものを老年症候群(老年病と云ってもよい)と云います。老年病は老化を基礎にした病気で、一人で多くの病気を抱えており、85歳では一人平均8個以上の症候を持つと云われています。

 

 

 


発行/萩野原メディカル・コミュニティ