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暮らしに役立つ 医療のおはなし 62

「肺年齢」を知って 肺の寿命を 延ばしましょう

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

 

■肺年齢とは

「肺年齢」とは、肺の働きを測定し健康な人間の何歳に相当するかを示したものです。このような考え方が生まれたのは、自分の実際の年齢と「肺年齢」との違いから、肺の病気に早く気づき、適切な対処をして、肺の寿命を延ばすためです。「肺年齢」が若ければ問題ありませんが、実年齢を上回っている場合にはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患が疑われますので、精密検査や治療が必要となります。

■肺年齢の決め方

肺年齢を決めるには、まず「肺活量」(肺機能)の検査を行います(図1)。この検査で1秒量(1秒間に思い切り吐ける空気の量)を測定し、その値をもとに表1の式で計算されます。(表1)

実際には、この検査を行うと検査機械が自動的に肺年齢を計算してくれます。

1秒量は老化現象で少しずつ低下します。20歳頃がピークで、健康な方でも加齢とともに少しずつ減少します。(図2) 呼吸器疾患があると、この減少が正常なスピードを超えて速く進むため、肺年齢が実年齢を超えるようになります。


■肺年齢が高くなる原因は?

肺年齢の結果が出たらその数字だけで満足しないで、結果に対する医師の評価を聞いてください。評価は(表2)のように5つに分類されます。

「肺疾患の疑い」、「COPDの疑い」とされた方は精密検査が必要となります。医師の指示に従ってください。肺結核後遺症、気管支拡張症、間質性肺炎、COPDなど様々な呼吸器疾患で病気が進行すると、肺年齢は実年齢よりも高くなります。数多くの呼吸器疾患の中で、特に肺年齢に注意しなければならないのはCOPDです。


■肺年齢とCOPD

多くの呼吸器疾患は咳、痰、呼吸困難などの症状や、肺の異常陰影をきっかけに診断されます。しかし、病気によっては早期にはこうした問題がなく、肺年齢だけに異常が現れることがあります。特に、COPDでは肺年齢が高いことで早期発見ができることが少なくありません。
COPDは、肺への空気の出入りが悪くなる病気です。タバコが主な原因で、以前は「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれていました。進行すると咳、痰、息切れなどの症状が出現しますが、早期の段階では症状はないか、あっても軽微で、「タバコを吸っているから当然のこと。仕事もできるし気にはならない。」と無視されがちです。また、肺のレントゲンも重症にならなければ異常を指摘するのは困難で、健診を受けても「異常なし」とされることがほとんどです。しかし、「肺活量」(肺機能)の検査をすると、肺への空気の出入りの悪いために、症状が出る前の段階で肺年齢が実年齢より高くなり、COPDの早期発見につながるのです。

■COPDと診断されたら、禁煙と 運動で肺寿命を延ばしましょう

肺年齢が、加齢とともに「年を重ねる」のは仕方のないことですが、病的に速く進むのは何としても避けたいところです。散歩や適度な運動で呼吸筋を鍛えましょう。肺は自らの力で伸び縮みはできません。横隔膜や肋骨の間にある肋間筋などの呼吸筋を鍛えると、肺にしっかり空気を吸い入れることが可能となります。アメリカ

タバコが肺癌やCOPDなど多くの呼吸器疾患の原因となっているのはみなさんご存知のことと思いますが、昨年から環境汚染で問題になっているPM2.5を発生させる原因でもあるのです。PM2.5は直径2.5μm以下の微粒子の総称ですが、粒子径が小さいため太い気道(空気の通り道)を通り抜け肺の奥にまで侵入して炎症を引き起こし、肺を損傷します。日本のPM2.5濃度の環境基準は、1日平均の35μg/㎥以下となっており、アメリカ環境保護庁でも、そのレベルが「許容範囲」となっています(表3)。

PM2.5の濃度が70μg/㎥を超えると「外出を自粛する」必要があるとされていますが、喫煙可能な喫茶店の店内は1日の平均が371μg/㎥と高く、ほぼ終日「緊急事態」のレベルにあるのです。  今まで喫煙して速く一秒量が低下していた人も、禁煙することでその低下のスピードは鈍ります。図2の既喫煙者のグラフを見ていただけるとわかりやすいのですが、50歳で禁煙すると一秒量の低下は非喫煙者と同程度となり、肺の寿命が延ばせるのです。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ