トップへ戻る

暮らしに役立つ 医療のおはなし 64

老化と健康 (その4)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

■老年病の予防(続)

老年病の予防のためには、若い頃からの生活習慣に気をつけることが大切です。前回までに食事や運動による老年病の予防について述べてきました。高齢者が生活の質を維持し、病的老化によって必要となる医療・介護・福祉などの支援を少なくして、「独立して生活ができる」健康長寿をめざすことが大切です。  高齢者が介護を必要とする原因は、脳卒中、老衰、認知症とならび、運動器障害が大きな割合を占めています。運動器とは「身体を支え、運動を実施する器官」です。50歳以降になると骨折や転倒、関節の病気など運動器障害が現れやすく、高齢者は「運動器を長持ちさせ、生涯にわたって立ち、歩き続けるための対策」が必要になります。  「運動器障害によって、立つ・歩く機能が低下した状態」はロコモティブシンドローム(ロコモ)として日本整形外科学会から提唱されています。長寿社会になり、骨、関節、筋肉などの運動器の状態が、長寿に追いついていないことも要因になります。また、中高年者は運動不足と云われていますが過剰な激しい運動も問題になります。「ロコモ」は、運動器の障害のために要介護になる危険の高い状態のことです。(表1)のロコチェックの7項目のうち思い当たるものはありますか?ひとつでも日常的に当てはまれば「ロコモ」の可能性があります。将来、介護が必要になったり、または、寝たきりにならないために、その初期に自分で気づくことが大切です。また、ロコモ予防のための最小限かつ中心的な運動も推奨されていますので、実施してみましょう。(図1)


3.ライフスタイルについて (日常生活の送り方)

「花咲ける老化」を実現するために、よりよい生活習慣すなわちライフスタイルが大切になります。高齢になってから、急に「歌を唱おう」「絵を描こう」と思ってもなかなか出来るものではありません。ライフスタイルも、中年期のうちに自分に合った生活習慣をつくり、高齢期まで持続したいものです。栄養や運動に加えて、嗜好品、趣味、社会活動への参加なども老化と関係が深いものです。

嗜好品として酒とタバコなどが問題になります。地中海式ダイエットの中にもあるように、適量の酒は勧められています。しかし、タバコは種々の呼吸器や循環器の病気の危険因子であり、勧められません。

社会活動の窓口になる趣味も大切で、趣味を介して友人をつくる機会も増え、興味や関心を共有することが出来ます。高齢期の健康と生き甲斐のためにも社会的な関係を豊かにする糧にもなり、高齢者が趣味を持つことが勧められています。しかし、高齢者が新しいことを習熟するという「70歳の手習い」は大変であり、中年期からはじめることが大切でしょう。

仕事など生産的社会活動に参加し、周囲の人たちとの人間関係を築いている高齢者は、病的老化を予防出来るばかりか「幸福な老い」すなわち「花咲ける老化」の実現も可能です。

健康に対する生活習慣の影響についての有名なアメリカの研究でも、7つの生活習慣(過度の飲酒をしない、タバコを吸わない、適正体重を維持する、適正な睡眠時間をとる、定期的に運動をする、間食をしない、毎日朝食をとる)のうち実施している習慣が多いほど、死亡者や要介護状態に陥る人が少なくなることが明らかにされています。また、高齢者のライフスタイルに関する調査では、長寿の秘訣は「くよくよしない」ということです。社交性のある人が内向的な人より長寿であるという報告もあります。

 


発行/萩野原メディカル・コミュニティ