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暮らしに役立つ 医療のおはなし 66

認知症と地域社会

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

今回から、「認知症」について考えてみたいと思います。

■認知症とは

認知症は、慢性的あるいは進行性の脳の病気によって脳細胞が死んだり、働きが悪くなったりして記憶や判断力が低下し、日常生活に支障がでてくる病気です。意識障害がないのが前提となります(図1)。 もの忘れが、症状の中心となりますが、加 齢によるもの忘れとは違います。「昨日の夕食のおかずは?」と聞かれて、すべてを思い出すことができないのは加齢とともに誰にでも起こることです。認知症では、ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。また、加齢に伴うもの忘れは、あまり進行せず、生活にも重大な支障が生じませんが、認知症のもの忘れは進行・悪化し、生活にも支障をきたします(表1)


■認知症は誰もがなる可能性のある病気

昔、認知症は「痴呆症」と言われ、家族に「痴呆」患者がいることは恥ずかしいことで他人には言いづらい風潮がありました。しかし、人口の高齢化がすすむにつれ認知症患者は増加し、2012年時点で全国に462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人の割合となっています(図2)。70歳代後半では1割、80歳代前半では2割、80歳代後半では4割、90歳代前半では6割の人が認知症と言われています。認知症は珍しい病気ではなくなり、誰もがなる可能性のある、ありふれた病気となってきています。

今後、高齢化のさらなる進行で10年後の2025年には700万人を超え、65歳以上の高齢者の5人に1人の割合になると推計されています。


■認知症の症状

認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状」(以前は「周辺症状」と言われていました)に分類されます(図3)。中核症状 脳細胞が壊れることから直接起こる症状で、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害などがあります。

中核症状

  1. 記憶障害
    新しいことが覚えられなくなり、ついさっき聞いたこと、していたことも思い出せなくなります。そして、進行すると過去の記憶も失われていきます。
  2. 見当識障害
    現在の月日や時間、場所など基本的なことがわからなくなります。「今日は何日か」といった質問をくり返したり、季節に合わない服を着たりします。自分の場所がわからなくなり、迷子になったりします。進行して過去の記憶が失われると、人間関係の見当識が障害されて自分の家族が誰であるかわからなくなってきます。
  3. 理解・判断力の障害
    考えるスピードが遅くなり、二つ以上のことが重なると混乱してしまいます。家族の入院など予想外のことが起こった時にうまく対応できなくなります。
  4. 実行機能障害
    たとえば、料理を作る計画を立てることなどが困難になります。必要な食材を購入して準備すること、みそ汁を作りながらおかずを調理するなどの同時進行ができなくなります。

行動・心理症状

徘徊、暴力などの行動症状や、不安、うつ状態、幻覚・妄想などの心理症状があり介護する人には大きな負担になる症状です(図4)。私たちには、認知症という病気のことを理解し、認知症の人たちが安心して暮らせる地域をつくることが求められています。みなさんと一緒に考えていきたいと思います。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ