トップへ戻る

暮らしに役立つ 医療のおはなし 82

喘息あれこれ(その5)

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

スマート療法について

今回は、気管支喘息の治療で行われているスマート療法について説明します。この治療法は、Symbicortmaintenanceandrelievertherapyの頭文字をとってSMART(スマート)療法と名付けられました。日本でスマート療法は、2012年に始まりその後普及しました。現在、この治療法に用いられる薬剤には、シムビコートとそのジェネリックであるブデホルの2つがあります(図1)。


■気管支喘息治療の基本

気管支喘息の患者さんの気管支では、慢性的に炎症が起こっています(図2)。
この気管支の炎症を抑え、空気の通り道を拡げることが喘息治療の中心となります。そのためには、吸入薬等の薬剤を毎日使用する必要があります。こうした薬剤を長期管理薬(表1)といいます。一方、気管支喘息の患者さんでは風邪や気候の変化等をきっかけに急に症状が悪化することがあります。その時は、喘息発作治療のために速やかに気管支を拡げる効果をもった薬剤が必要となります。それを発作治療薬(表1)といいます。


■スマート療法とは

気管支喘息の治療は、長期管理薬を毎日継続し、必要に応じて発作治療薬を上乗せして使用するという二階建ての構造となります。シムビコートを長期管理薬としても発作治療薬としても使用する治療方法をスマート療法といいます。

シムビコートにはブデソニドとホルモテロールという2つの薬剤が配合されています。ブデソニドはステロイドの一種で気管支の炎症を鎮めてくれます。ホルモテロールは長時間気管支を拡げる作用を持ったβ2刺激薬(以下LABA)の一種ですが、他のLABAにはないユニークな特徴をもっています。それは、長時間作用するだけでなく速やかに効果がでるということです。即効性が期待できるので、シムビコートは長期管理薬でありながら発作治療薬としても使える薬剤なのです。

■スマート療法の実際

シムビコートは、長期管理薬として通常は定期吸入として「1回1吸入、1日2回」、1日で合計2吸入します。少し病状が重い場合は定期吸入として「1回2吸入、1日2回」、1日で合計4吸入します。発作が起きた時は1吸入を追加吸入します。数分して改善がない場合は更に1吸入追加できます。1日合計8吸入まで使用可能な薬 なので、(表2)のように「1回1吸入、1日2回」定期吸入している患者さんは1日6吸入、「1回2吸入、1日2回」の患者さんは1日4吸入の追加ができます。なお、スマート療法は長期管理薬としてのシムビコートの吸入回数が少ない患者さんが対象となっているので、「1回3吸入、1日2回」1日で合計6吸入以上定期吸入している重症の患者さんには適応されません。


■スマート療法の長所と短所

長所は、①ひとつの薬剤で長期管理と発作治療の両方ができること、②シムビコートには吸入ステロイドの成分が入っているため、気管支を拡げ発作状態を解除できるだけでなくその成分によって気管支の炎症を鎮めることもでき、他の発作治療薬以上の上乗せ効果が期待できることです。短所は、①発作時にも使用することによって、シムビコートを定期的に使用すべきであることを忘れ「症状がある時だけ吸入すればよい」という意識が生まれてくること、②患者さんの病状が安定し、スマート療法を必要としなくなり、シムビコートより弱い薬に変更するときに発作治療薬の処方が必要になることです。

■スマート療法の注意点

このような長所と短所を併せもつ治療方法ですのでいくつかの注意が必要です。
①症状がない時でもシムビコートを毎日必ず使用し、発作時のみの使用にならないこと、
②追加吸入を2日連続で必要とした ら、速やかに医療機関を受診することです。追加吸入を必要としたということは発作が起きているということです。それは、喘息の状態が不安定になっていることの証しです。それが2日続いたら医療機関を受診して適切な対応をしてもらいましょう。スマート療法は便利で有用な治療方法 ですが、こうした注意点を守ることが大切 です。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ