暮らしに役立つ医療のおはなし 20

便秘と下痢(その2) わたひき消化器内科クリニック 綿 引 元

■便秘について
 便秘を訴えて来院される患者さんが大勢いらっしゃいますが、人それぞれに状況が異なります。正常の排便習慣は個人差が大きく、排便回数は1日3
回から1週間に1〜2回くらいまでと様々です。
  一般的に言う、便秘とは、排便回数が少なくなることおよび小さいコロコロの硬い便が出ることを意味します。
  皆さんが「便秘になった」と感じる場合、

(1)普段より排便回数が少ない
(2)普段より便が硬い
(3)気張らなければ出ない
(4)残便感がある

などの状態を訴えているのではないかと考えられます。中には、緩下剤が過剰で軟便になり、1回の便の量が少なく、残便感がありすっきりでないために便秘と思っている患者さんもいます。「便秘かな?」と思ったら、必ず排便回数や便の硬さなど便の性状を確認することが大切になります。

■便秘の原因について

 便秘はその起り方から、急性の便秘(一時的な便秘)と慢性の便秘に分けられます。また、便秘の原因には、日常的な食事の問題から腸閉塞などの消化管の機械的な閉塞まで幅広くあり、その原因から、機能性の便秘と器質性の便秘に分類されます。そのため大腸癌などの重大な器質性便秘の原因を見極めたうえで慢性の機能性便秘の治療を開始しなければなりません。後ほど詳しく述べますが、器質的な便秘の診断には、便潜血反応、腹部単純X線検査、注腸X線検査、腹部超音波検査あるいは大腸内視鏡検査などを実施していきます。
  慢性の機能性便秘は、いわゆる「常習性便秘」と呼ばれているものです。その中でも、大腸の緊張が低下し、ぜん動運動が弱っている弛緩性便秘が頻度的に最も多くみられます。その他、過敏性腸症候群に見られるけいれん性便秘や、排便反射が低下し、腹筋力が弱くなることから起こる直腸性便秘(加齢や浣腸の乱用などによって起こる)があります。
  食物繊維の不足、水分摂取の不足、運動不足、便意を我慢するなどの不適切な生活習慣や、糖尿病、脳梗塞などの病気も便秘の原因になります。さらには、鎮痙剤、降圧剤、抗うつ剤など、普段使われている薬剤の副作用として、便秘になる場合もあります。
  高齢になると、便秘を起こす因子のほとんどが増強してきます。そのため、生活習慣、食事、運動などの指導が大切になります。また、便秘が長引くと糞便閉塞を起こし、糞尿失禁を起こすこともあります。

■便秘の対策と治療
(1)急性の便秘
  急性に発症した便秘の場合は、原因を見極めた上での対処が必要になります。器質的な病気の存在が認められる場合や糖尿病などの全身疾患の一部分症としての便秘の場合は原因となる疾患の治療が先決になります。
(2)慢性の機能性便秘
  慢性の機能性便秘に対しては、生活習慣、食事、運動などが大切になります。排便を我慢しないようにすること、朝食後の排便の習慣をつけることが必要です。腸のリズムを良くするために適度な運動をすること、また老人や経産婦の場合は、腹筋が弱まった結果として便秘になることから、腹筋を鍛える運動も必要になります。
  歩行ができ、便秘以外の点で健康であれば、食事への配慮と運動で排便回数を調節するようにしましょう。その為には、植物性炭水化物で構成される十分な食物繊維と水分を多く含む食事をとることです。また、運動は、規則正しい腸のぜん動運動を刺激し、食物の通過時間を短くしますので、散歩などをしっかり実施しましょう。なお、プライバシーの欠如した状態や身体活動の減少、寝たきりの状態は排便刺激が低下し便秘の原因になりますので、生活環境にも注意しましょう。

■下剤の使用について

 生活習慣や食事の改善、運動などによっても効果が得られない場合には、下剤を使用します。薬剤の使用は弱いものからはじめますが、習慣性に注意が必要です。下剤は間欠的あるいは規則的に使用しますが、下剤の使用期間は可能な限り短くすることが鉄則です。長期間の下剤の使用は好ましくありません。
  刺激性下剤(腸管粘膜の局所刺激や腸壁内の神経を刺激して腸運動を高める下剤で、プルゼニド錠・センナエキス・アロエ末・ラキソベロン液などがある)を長期使用すると、腸が弛緩してしまいます。

 また、下剤を使用し過ぎたり、使用のし方を誤ったりすると、低カリウム血症を起こすなどの副作用が出ますので、注意が必要になります。医師の指導を受けながら、適量を適切な期間、きちんと使用することがもっとも大切なのだと言えます。






発行/萩野原メディカル・コミュニティ