暮らしに役立つ 医療のおはなし 28
大腸癌 〜その予防と治療〜(その3) わたひき消化器内科クリニック 綿引 元

ステージ分類
0期
がんが粘膜内にとどまっているもの
I期
がんが大腸壁内にとどまっているもの
II期
がんが大腸壁を超えているが、
大腸の周りの臓器には及んでいないもの
III期
がんが大腸の周りの臓器に広がっている、
あるいはリンパ節転移があるもの
IV期
がんが遠くにある腹膜や、肝臓、肺などの
大腸から離れた臓器に転移しているもの
表-1/大腸癌の進行度分類(ステージ分類)
(「大腸がん 体にやさしい最新治療」森谷 宜皓より)
 大腸癌の主な治療法には、「内視鏡的治療」「手術療法」「抗がん剤による化学療法」「放射線療法」があります。
 治療の基本は、手術によって癌を切除する「手術療法」ですが、癌の進行度によっては、身体的に負担の少ない「内視鏡的治療」や「腹腔鏡手術」が行われるようになってきています。
 なお、化学療法や放射線療法は手術の前後に補助的に行われるのが一般的です。

■癌の進行度によって治療法が異なります

 大腸癌は粘膜から発生しますが、癌がどこまで広がっているかによって進行度も違ってきます。早期癌は、癌が粘膜や粘膜下層にとどまっている状態であり、身体に負担の少ない治療法を選択できます。
進行度(病期)には、「ステージ分類」と呼ばれる、大腸癌の分類法もあります(表-1)。転移の有無や転移した場所がポイントになります。


内視鏡の先から生理食塩水を注入して、がんのある部分を膨らませる。

がんが膨らんだら、内視鏡の先からワイヤーを出してかけ、高周波電流を流してがんを根元から焼き切る。
図-1/内視鏡的治療 : ポリペクトミーに準じた粘膜切除術(EMR)(「大腸がん 体にやさしい最新治療」森谷 宜皓より)
■早期大腸癌の治療
 早期癌の治療には、身体に負担をかけない「内視鏡的治療」(ポリペクトミーと粘膜切除術)や「腹腔鏡手術」があります。
 「内視鏡的治療」は、開腹せずに癌を切除できる、非常に負担の少ない治療法です。外来での治療も可能ですが、数日間入院する場合があります。この治療法の対象
となるのは、粘膜にとどまっている癌です(ステージ分類:0期)。基本的な手順は内視鏡的ポリペクトミーと同じで、内視鏡の中を通したスネ
表-1/大腸癌の進行度分類(ステージ分類)(「大腸がん 体にやさしい最新治療」森谷 宜皓より)
ア(ワイヤー)を内視鏡の先から出して癌の根元にかけて、その根元をスネアで締め付け、高周波電流を流して焼き切ります。平たんな癌の場合には、癌の根元に生理的食塩水などを注射して、癌の部分を膨らませてから焼き切ります(図-1粘膜切除術・EMR)。切除した癌の組織は顕微鏡で詳しく調べて、癌が粘膜下層に広がっている場合には、あらためて開腹手術を行うこともあります。
 「腹腔鏡手術」は、腹部に数カ所小さな孔をあけ、そこから腹腔鏡や手術器具を挿入し、モニターで腹腔鏡の映像を確認しながら、癌やリンパ節を切除します(図-2)。切開部位が小さく、手術後の回復も早いため、1週間程度の入院ですみます。この手術は、癌が粘膜下層にとどまっている場合に行うことも可能です。

■進行大腸癌の治療
 一方、癌が粘膜を超えて広がっていた場合には(ステージ分類:1期以上)、開腹手術が行われます。
 「結腸癌」では、癌を含め前後10cm程度の部位と、周囲のリンパ節を一緒に切除します。手術時間は2〜3時間程度で、2週間程度の入院が必要です。また、切除した癌の組織を顕微鏡で調べて、癌の広がりの状況で、抗癌剤の投与を行う補助療法を追加することもあります。
 「直腸癌」では、肛門を切除して人工肛門をつくる手術が主流でしたが、現在では、直腸癌の大半で肛門を温存し排便機能を残すことが出来るようになっています(肛門括約筋温存術)。
 大腸癌は、周囲のリンパ節以外に、肝臓や肺にも、転移することがあります。これらの臓器に転移した場合は、抗癌剤による化学療法が治療の中心となります。しかし、肝臓に転移しても、その数が少ない場合は、大腸癌の切除と同時に、肝臓も切除できることがあります。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ