暮らしに役立つ 医療のおはなし 31
大腸癌 〜その予防と治療〜(その4) わたひき消化器内科クリニック 綿引 元

 
図-1/結腸癌・直腸癌の病期別5年生存率
大腸癌研究会・大腸癌全国登録 1995〜1998年度症例
病期分類(ステージ)
0
I
II
IIIa
IIIb
IV
壁深達度 m 癌
壁深達度 sm と mp 癌
壁深達度 mp 以深の癌
癌が直接他臓器に浸潤しているもの
壁深達度に関係なく、広い範囲にリンパ節転移があるもの
壁深達度に関係なく、リンパ節・腹膜・肝への転移、腹腔外臓器転移があるもの
 今回は、治療により大腸癌はどこまで治るか、また、手術後の経過観察をどうしていくべきかを説明します。なお、大腸癌の治療については全国どこの病院でも同じ質の高さで受けられるように「大腸癌治療ガイドライン」が作られています。このガイドラインを紹介しながら述べてみます。

■進行癌でも約80%は治ります

 大腸癌研究会・全国登録(1995〜1998)によると、大腸癌の治癒切除例の5年生存率は、全症例で81%、結腸癌では84%、直腸癌では部位により異なり、81%(Rs : S状結腸に近い部位)から77%(Ra〜Rb : 肛門に近い部位)です。すなわち、大腸癌は手術できれいに切除できれば(治癒切除といいます)、進行癌でも約80%は生存できます。これは胃癌などに比べても良い治療成績です。なお、直腸癌は結腸癌に比べてやや生存率が悪いといえます(図-1)。

■大腸癌の治療と経過について
「大腸癌治療ガイドライン」より〜
1、内視鏡的治療とその後の経過
 内視鏡的治療には、ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術(EMR)があることを前回説明しました。最近では、表面型腫瘍や大きな無茎性病変に対して、手技の難しい内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も行われていますが、穿孔(腸に穴があく)などの合併症の危険が高く、まだ一般的な治療法ではありません。
 現在のところ、内視鏡的治療ができる基準は、粘膜内癌(粘膜内にとどまった癌)で、最大径2cm未満のものです。しかし、内視鏡的切除した癌の組織を顕微鏡で詳しく調べて、癌が粘膜下層に広がっている場合、局所のリンパ管や静脈に癌細胞が入り込んでいる場合、さらには、たちの悪い組織型の未分化癌などでは外科的治療を追加する必要があります。また、分割切除の場合は局所の再発が高いことから、一括切除のできる大きさのものが治療の対象になります。
 内視鏡治療後の経過観察は、粘膜内癌(m癌)でも切除が不完全な場合は、半年から1年後に大腸内視鏡検査で局所再発の有無を調べます。粘膜下層に浸潤した癌(sm癌)で経過観察する場合は、局所再発のみでなく、リンパ節への再発や肝・肺などの遠隔臓器への転移の検索も必要になります。なお、sm癌の内視鏡治療後の再発は1〜3年以内に発症することが多いといわれています。

2、手術治療とその後の経過観察
 大腸癌の手術では、術前の画像診断や手術中の所見による腫瘍の壁深達度およびリンパ節転移度からリンパ節を郭清(取り除く)する範囲が決まります。リンパ節は癌の存在する部位と腸管壁のリンパ節の距離などから、第1群から第4群リンパ節に分類されます。粘膜内癌は通常リンパ節転移はありませんので、リンパ節の郭清は必要ありません。粘膜下層に癌が浸潤すると約10%程度のリンパ節転移があり、第2群のリンパ節まで郭清します。粘膜下層を超えてさらに深く癌が浸潤する進行大腸癌になりますと、さらに広い範囲でリンパ節の郭清が行われます。
 ステージ?とステージ?の大腸癌の経過観察期間は術後5年間がめやすになります。腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)と腹部超音波検査、胸部X線、CTなどを定期的に行い、経過観察をしていきます。
 大腸癌の術後5年を超えての再発は全症例の1%以下です。ステージ0では再発はなく、ステージIではsm癌で約1%、mp癌(固有筋層に浸潤した癌)で約6%です。ステージIIでは約12%、ステージIIIでは24〜41%とステージが進むに従って再発率が増加するので、術後の補助化学療法が行われ、再発抑制効果が得られています。

■進行大腸癌の治療
 一方、癌が粘膜を超えて広がっていた場合には(ステージ分類:1期以上)、開腹手術が行われます。
 「結腸癌」では、癌を含め前後10cm程度の部位と、周囲のリンパ節を一緒に切除します。手術時間は2〜3時間程度で、2週間程度の入院が必要です。また、切除した癌の組織を顕微鏡で調べて、癌の広がりの状況で、抗癌剤の投与を行う補助療法を追加することもあります。
 「直腸癌」では、肛門を切除して人工肛門をつくる手術が主流でしたが、現在では、直腸癌の大半で肛門を温
存し排便機能を残すことが出来るようになっています(肛門括約筋温存術)。
 大腸癌は、周囲のリンパ節以外に、肝臓や肺にも、転移することがあります。これらの臓器に転移した場合は、抗癌剤による化学療法が治療の中心となります。しかし、肝臓に転移しても、その数が少ない場合は、大腸癌の切除と同時に、肝臓も切除できることがあります。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ