暮らしに役立つ 医療のおはなし 34
心筋梗塞の話 〜治療関係〜 やなせ内科呼吸器科クリニック 循環器医師 山下 恭典

 今回は心筋梗塞が確定診断となった患者さんに、どんな治療が行われるのかを解説していきます。


 心筋梗塞の治療は、?病気が発生したばかりの急性期の治療(心臓の被害を最小限にとどめる治療)と、?病気が安定している状態での慢性期の治療(心臓が安定して機能するようにする治療、あるいは病気の再発を防ぐ予防的な治療)とに大きく分けられます。前者は患者さんの命に危険が生じているわけですから、循環器科医(内科、外科とも)にとって最も責任が重い分、腕の見せ所ともいえるでしょう。後者は安定期の治療ですので一見すると医師にとって地味な仕事といえますが、前者と同様かそれ以上に重要なことです。

 まずは急性期の治療から解説していきます。心筋梗塞は心臓の血管(冠動脈)が詰まってしまうために、心臓の筋肉が壊死してしまう病気です。詰まってから時間が経過すればするほど失う筋肉が多くなり、慢性期の心機能がその分だけ落ちてしまいます。現在の医学では心臓の筋肉は元に戻せないので、いかに早期に血管を再開通させるかが重要で、時間との闘いといってもよいでしょう。
 急性期の治療で現在盛んに行われているのが冠動脈内ステントという方法です。ステントとは簡単にいえば金属製のメッシュ状の管です(図-1)。詰まった血管を心臓カテーテル検査で確認し、引き続きその部位を風船つきのカテーテルで拡張して、さらにそこが再閉塞しないように管を入れて留置する治療です。最近では特殊な薬剤が徐々に溶け出すようなステントも使用されています。以前は風船つきのカテーテルで拡張するだけでしたので、治療中に血管が傷ついた場合に治療失敗となりましたが、ステントが使用されるようになり、失敗が少なくなっていますし、再狭窄の頻度も減っているようです。
 もうひとつ重要な治療が外科的治療の冠動脈バイパス手術(図-2)です。ただステントが盛んになったため、以前と比べれば行われる件数が減っているかもしれません。しかしすべての症例がステントで安全に治療できるわけではなく、バイパス手術しか方法がない場合もありますので、個々の症例での内科医の詳細な診断が重要です。

 次に慢性期の治療です。最も大切なことは、当たり前ですが心筋梗塞の再発を起こさないようにすることです。100%の予防はできませんが、少しでも再発を減らすにはいくつかのポイントがあります。
まずは動脈硬化を促進する病気があれば、それをかなり厳格に治療することです。特に高脂血症、高血圧、糖尿病を完璧にコントロールすることが望まれます。またその治療のための薬剤には心臓に好影響をあたえるとされるものが優先的に選択されます。高脂血症ではスタチン系と呼ばれる薬剤、高血圧ではARBやACE阻害剤と呼ばれる薬剤あるいはβ|ブロッカーの系統のものなどです。糖尿病は病気のコントロールがされればどの薬剤でもかまいません。そのほか血管の閉塞を予防するとされる少量のアスピリンは特別な理由がなければ全例に使用されます。

 薬剤以外では日常生活での指導も大切で、禁煙やストレス回避や過労の予防、運動の励行や食事指導などやるべきことは多いのです。栄養士や看護士の協力も不可欠です。何より大切なのは長期にわたる治療に対しての患者さんの意欲であるのは言うまでもありません。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ