暮らしに役立つ 医療のおはなし 36
大腸内視鏡検査(colonofiberscopy=CF)の話 わたひき消化器内科クリニック 副院長 斉藤 雅之

図−1 S状結腸におけるループのでき方および
    ループ解除による下行結腸への進み方
日本メディカルセンター『大腸内視鏡』より
 
●私がCFを始めたのは昭和54年です。その頃はスコープも悪ければ、経験もなく、挿入方法も未熟だったので、検査に1、2時間もかかることがありました。患者さんの負担も大きく、「この検査だけは2度とイヤ」と言われることもあったほどです。当時はレントゲン透視下に検者と助手の二人で、掛け声をかけながらスコープを押したり引いたりして挿入していました。

●しかしスコープの進歩は目覚しく、今ではたいへん使いやすくなりました(まるでミゼットとクラウンの違いかな)。岐阜時代には軽い鎮静剤を使っていましたので、患者さんの苦痛も少なく、4〜5分で盲腸に到達することができるようになったため、「CFの方が胃カメラより楽だよ」と説明していたくらいです。当クリニックでは患者さんの希望がない限り鎮静剤は使わずに、一緒にテレビモニターを見て頂きながら、苦痛がないようにゆっくりと検査しています。少し時間はかかりますが、納得のいく検査ができていると思います。

図−2 平坦陥凹型の早期癌病変
医学書院『胃と腸 第29巻』より
患者さんに苦痛を与えないための秘訣は、S状結腸でループを作らずに、いかにスコープを直線的に下行結腸に挿入するかにあります。ここが検者の腕の見せどころです(図-1)。負担を少なく安全・確実に挿入すると同時に5ミリ、10ミリの平坦陥凹型の早期癌病変(小さくて浅いわずかに凹んだ病変、図-2)をいかに見つけ出すかも検者の力量にかかっています。検者の責任は重大なのです。

●胃癌のみならず、大腸早期癌の診断および治療法においても日本は世界に冠たるトップリーダーです。その中心を担う人物は大腸にも胃と同様、陥凹型早期癌のあることを発見した工藤進英先生(昭和大学)です。さらに彼は病変を100倍にズームアップする拡大内視鏡スコープを開発し、腫瘍の表面構造『pit
図−3 pit pattern分類
I 型
II 型
IIIs 型
III L 型
VI 型
V 型
日本メディカルセンター『大腸sm癌』より
pattern』を検討・分類し、腫瘍の悪性度および深達度を診断する方法を世界に発信しました(図-3)。欧米では今まで腺腫であるポリープから癌に進展していくものであると考えていましたが、工藤先生たちの頑張りによって、5ミリ以下の小さな病変でもすでにde novo癌であることを納得しつつあります(実はこれが大腸癌のメインロードなのです)。

●内視鏡検査の精度は検者である個々人の力量に依存します。病変があるという『存在診断』ならびに、いかなる病変なのかを判断する『質的診断』がしっかりでき、その病変に対して内視鏡治療でOKなのか、それとも外科的手術が必要なのか。内視鏡治療の場合、粘膜切除術でいいのか、粘膜剥離術が必要なのか、切除病理を見据えた医学的知識と技術力の裏打ちが必要なのです。

●CFのもう一つの辛い点は、前処置として腸管洗浄液を2リットルも飲まなくてはならないことです。私も以前経験しましたが、これは結構きついです。これだけは「頑張って」というしかありません。

●大腸癌は増え続けています。下の検査は抵抗がなあと感じておられる患者さんもみえると思いますが、まずは心のハードルを超えてください。安心して。大丈夫ですから。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ