暮らしに役立つ 医療のおはなし 38 |
慢性呼吸不全と在宅酸素療法 やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次
■在宅酸素療法の効果(図-1) 慢性呼吸不全状態(動脈血中の酸素濃度が60Torr未満)になった時に、家で酸素の呼吸をする在宅酸素療法が必要になることは前回述べた通りです。在宅酸素療法の効果は、第一に長生きができるようになること、第二に呼吸困難感が軽くなること、第三に生活の質が改善すること、第四に入院回数が少なくなることです。
酸素は通常、鼻カニュラを用いて吸入します(図-2)。しかし、酸素不足になったからといって、やみくもに大量の酸素を吸入すればよいというものではありません。酸素吸入量が多すぎると血液中の二酸化炭素が上昇し、頭痛、眠気といった問題が発生し、場合によっては昏睡状態に陥ることもあります。 慢性呼吸不全には、二つの型があります。第一の型は、二酸化炭素が増加しないタイプで、第二の型が増加するタイプです。酸素吸入をすると、動脈血中の酸素の値が改善するだけでなく、二酸化炭素も上昇する場合があります。特に第二の型の慢性呼吸不全ではそうなりやすいのです。二酸化炭素が上昇しすぎると、体に様々な問題が発生します。したがって、第二の型の慢性呼吸不全では、動脈血中の酸素(PaO2)をむやみに上昇させることなく、60Torr台に留まるよう酸素吸入量を必要最小限に設定する必要があります。 酸素流量は、一定量の酸素を吸入した状態で動脈血の検査を行い、吸入酸素量が適切かどうかを判断して決定されます。なお、歩行、入浴や食事中にはより多い酸素吸入が必要となることが多く、通常は安静時の1.5倍〜2倍とします。 ■酸素供給源
在宅酸素療法に用いる酸素供給装置には、(1)設置型酸素濃縮装置(図-3)、(2)液化酸素、(3)携帯用酸素ボンベ(図-4)(4)携帯型液化酸素装置があります。ほとんどの患者さんは(1)と(3)を使用しています。 空気は約20%が酸素、約80%が窒素ですが、設置型酸素濃縮装置は空気中の窒素を吸着し、その結果90〜93%の濃度の酸素を供給することが可能となっています。電源さえあれば酸素供給の継続が可能で酸素ボンベのように空になることはありません。また、携帯用酸素ボンベは、外出の際に必要となります。最近では軽量化が進み、ボンベを運ぶ器具(カートやバッグ)なども工夫され携帯しやすくなっています。また、息を吸ったときだけ酸素が流れる呼吸同調装置が装着されるようになっているため、ボンベの使用時間が以前の2〜3倍に延長しています。外出の際は、ボンベの酸素残量の確認、元栓の開閉・酸素流量設定・呼吸同調装置の点検をようにしましょう。 ■停電対策、火への注意 停電時のために予備の酸素ボンベ・懐中電灯を用意しておきましょう。停電が長期化したときに備え、業者との連絡方法を確認しておきましょう。 在宅酸素療法に関する事故で最も多いのが火に関することです。タバコの火がカニュラに引火し濃縮装置にまで伝わり火事になった報告もされています。禁煙は必須です。また、家庭では火を扱う作業は可能な限り家族や介護者にお願いしましょう。それができない場合には、酸素吸入を一時停止し、カニュラを火から2m以上離してください。 次回は急性増悪への対応などについて説明します。 |
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |