暮らしに役立つ 医療のおはなし 39 |
慢性呼吸不全と在宅酸素療法 3 やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次 慢性呼吸不全の患者さんで、急に咳、痰、発熱、息切れ、胸痛などが出現して状態が悪化することを「急性増悪」と言います。急性増悪の原因には感染、喘息発作、心不全、気胸、喀血などがあります。慢性呼吸不全の患者さんにこれらの病気が加わると、健康な人に比べて重症化しやすく、入院治療を要することにも少なくないので早期治療が大切となります。気になる症状が出現したら、「受診予定の日まで様子を見よう」などと考えず、すぐに来院してください。
(1) 感染 急性増悪の原因で最も多いのが感染です。発熱、咳などに加えて黄色や黄緑色や褐色の膿性痰が出現すれば、細菌感染が起こったと考えるべきです。こうした場合は、抗生剤の投与が必要です。この治療が遅れると肺炎に進展することがあります。細菌感染の原因菌の大部分はインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは全く別物)、肺炎球菌(図-1 青い小さな粒が菌)、モラクセラ・カタラーリスの3つです。受診の際、痰をサランラップなどに包んで持ってきてください。痰を顕微鏡で観察すると原因菌がわかることが多く、治療がしやすくなります。 (2) 喘息発作 喘鳴(呼吸の際にゼーゼーと音がする)や呼吸困難が主な症状です。気管支喘息の患者さんだけでなく、肺気腫や慢性気管支炎の患者さんでもみられることがあり、感染を契機に喘息発作が起こることもあります。喘息発作が起これば、短期間のステロイドや気管支拡張剤の内服もしくは点滴が必要になることがあります。 (3) 心不全 呼吸困難、咳に加えて「むくみ」が出現したら心不全の合併を考えるべきです。足や「すね」がむくんだり、顔がむくんだりします。患者さんによっては顔だけがむくむことがありますので、下肢だけをみるのではなく、顔、特に「まぶた」のしわがむくみのために少なくなっていないか注意する必要があります。また、喘息発作のような「喘鳴」を伴うこともよくあります。在宅酸素療法を受けている患者さんでは、肺が悪いために普段から心臓に負担がかかっていることがあり、心不全の発生には注意する必要があります。毎日体重を測定し、数日で2〜3kgも体重が増加したらすぐに受診してください。利尿剤を中心とする治療が行われます。 (4) 血痰・喀血 痰の一部に血液がまじっているのを「血痰」、痰全体が血液であるのを「喀血」と言います。少量の出血では通常、止血剤と安静で改善しますが、出血量が多かったり、出血が持続する場合は入院治療が必要となります。
突然、鋭い胸痛が出現し、呼吸困難を感じるようになったら気胸を疑う必要があります。肺の表面を覆う薄い膜に小さな穴があき空気がもれて肺がパンクした状態を気胸と言います(図-2 矢印の先が肺の表面)。原則として入院治療が行われ、漏れた空気を抜くチューブを胸の挿入し、場合によっては穴のあいた部分を切除する手術が行われます。 急性増悪を予防するには、適量の栄養、十分な休養、きちんとした薬の服用が重要です。また、最大の増悪要因である感染の予防には、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が大切です。ご本人だけでなくご家族も感染予防に留意し、急性憎悪を防ぎましょう。 在宅酸素療法を受けている患者さんに対しては、在宅療法を支えるための様々な社会保障制度が用意されています。 ●身体障害者手帳…認定される重症度により、年金、税金、交通費、公共料金等の援助や医療費助成制度を利用できます。 ●特定疾患の認定…肺線維症(特発性間質性肺炎)は厚生省が「難病」に指定しており、ある程度以上に呼吸機能が障害されている患者さんは一定の医療費の助成が受けられます。※詳しくはご相談ください。 |
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |