暮らしに役立つ 医療のおはなし 41
メタボリックシンドロームと特定健診(メタボ健診)について
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


 本年4月から、生活習慣病対策の「メタボ健診」が始まりました。40才以上75才未満の人に対して、「メタボリックシンドローム」の早期発見を目的として「特定健診」を行い、「メタボリックシンドローム」とその予備軍とされた人に対して、保健指導を実施することになりました。

表-1 特定健康診査の項目
必須項目
●質問票(服楽歴、喫煙歴 など)
●身体計測(身長、体重、BMI、腫囲)
●理学的検査(身体診察)
●血圧測定
●血液検査
 ・ 脂質検査(中性脂肪、HDLコレステロール、
   LDLコレステロール)
 ・ 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
 ・ 肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)
●検尿(尿糖、尿蛋白)

詳細の健診の項目
●心電図検査
●眼底検査
●貧血検査(赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値)
注)一定の基準の下、医師が必要と認めた場合に実施
■メタボ健診の目的は、生活習慣病の予防
 日本人の生活習慣の変化や高齢者の増加などにより、近年、糖尿病などの生活習慣病が増加してきています。例えば、糖尿病の有病者は約740万人、予備軍は約880万人と増加の一途をたどり、さらに、脳卒中による死亡者数は年間約13万人、心筋梗塞による死亡者数は年間約5万人にも上ります。生活習慣病は適切な対策を行うことで予防可能であり、厚生労働省は21世紀の日本人の健康を考える「健康日本21」をつくり、「成人病」を「生活習慣病」という名前に変え、生活習慣に関係する糖尿病、高血圧、高脂血症のほか、脳卒中や心筋梗塞を減らすことを目標にしてきました。しかし人間ドック的な健診だけでは生活習慣が改善されず、特に働き盛りの中年男性の数値が悪化しました。そこで、保健師や管理栄養士などが受診者に生活改善を促す保健指導を導入したのが「メタボ健診」です。
■生活習慣病は労働習慣病
 最近は、不安定な派遣労働が急増し、「ワーキング・プア」が社会問題になっており、さらには、過労死や自殺が増えるなど職場環境や働き方の問題が大きく取り上げられています。「生活習慣病」と言われていますが、長時間労働で食事や生活時間が乱れていることがその背景にあり、「労働習慣」の見直しが必要なところです。
■メタボ健診の内容について
 健診項目について、従来からの基本健康診査から大きく変わった点は、1)メタボリックシンドロームの診断基準の「腹囲」を必須項目にしたこと、2)総コレステロールに変わり「LDL(悪玉)コレステロール」を測定することです(表-1)。また、特定保健指導対象者は、内臓脂肪の蓄積を表す腹囲が基準以上(男性85cm以上、女性90cm以上)である者、従来からの肥満の基準であるBMI25以上の者、さらに、血圧、脂質、血糖に関する追加リスクの重複の程度に応じて、「情報提供レベル」「動機づけ支援レベル」「積極的支援レベル」を決定します。なお、降圧剤など生活習慣病の服薬治療をしている者は対象から除外することになります。
■メタボリックシンドロームとは
 「メタボリックシンドローム」の名称については、1985年に「シンドロームX」、ついで「死の四重奏」、「インスリン抵抗性症候群」など多くの名称が提唱されてきました。1999年にWHOより「メタボリックシンドローム」の名称が提唱され、国際的にも一般的になっています。厚生労働省は「内臓脂肪症候群」の邦語を提唱しています。
 過食・運動不足などの生活習慣の乱れやストレスから、内臓に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」が注目を集めています。「内臓脂肪型肥満」の方では、血圧、中性脂肪(トリグリセリド/TG)、血糖値などの検査値が、正常値より「やや高め」になる場合が多く、これらの「やや高め」が重なりあうことで、動脈硬化の危険性が非常に高くなることがわかってきました。このような状態を「メタボリックシンドローム」と呼んでいます(表-2)。ドミノ倒しのように、生活習慣の乱れからいろいろな病気が重なり、重大な病気が気づかないうちにどんどん進行していきます。
 メタボリックシンドロームと思われる方は、日頃から生活習慣を改善し、出来るだけ早い時期から適切な対策を取るよう努力しましょう。
表-2
ウエストのはかり方
足を25〜30cm開いて立ち、体重が左右の足に均等にかかるようにします。
息を軽く吐き、おへその位置ではかります。
片山茂裕 監修
『メタボリックシンドローム』より
※糖尿病、高コレステロール血症の存在はメタボリックシンドロームの診断から除外されません。※暮トリグリセライド(中性脂肪)血症、低HDLコレステロール血症、高血圧、糖尿病に対する薬物治療を受けている場合は、それぞれの項目に含めます。※メタボリックシンドロームと診断された場合、糖負荷試験がすすめられます。
(日本内科学会雑誌 94:188-203.2005より)



発行/萩野原メディカル・コミュニティ