暮らしに役立つ 医療のおはなし 44
メタボリックシンドローム(その1)
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


図-1 日本人のメタボリックシンドローム診断基準
日本内科学会雑誌 94:188-203.2005より
図-2 腹部CT検査皮下脂肪型肥満内臓型肥満
皮下脂肪型肥満
女性型
危険因子の合併が少ない
内臓型肥満
男性型 脂肪肝の高頻度合併
    インスリン抵抗性
    多危険因子の合併
図-3 危険因子の保有数と虚血性心疾患発症オッズ比
   −多変量オッズ比−
労働省作業関連疾患総合対策研究班:Jpn Circ J,2001;65:11
■メタボリックシンドロームとは
 「肥満、高血糖、高脂血症、高血圧」といった動脈硬化の危険因子を複数併せ持った状態を「メタボリックシンドローム」といいます。食べすぎや運動不足などの日常の生活習慣によって、肥満、高血糖、高脂血症(脂質代謝異常)、高血圧など多くの危険因子が呼び覚まされます。これらの危険因子の程度は一つ一つが軽くても、いくつか重なり合うことによって、知らず知らずに動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中などの重大な病気が引き起こされる状態になります。
 心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患は、働き盛りの人々を突然襲い、死を免れたとしても大きな障害を残すなど、命にもかかわる危険な病気です。

■内臓脂肪の蓄積が動脈硬化をすすめる
 内臓脂肪が蓄積した人には、外見上「さほど太ってはいないけれど、お腹が出ている」といったタイプが多く見られます。内臓脂肪がたまってくると「インスリン抵抗性」を引き起こし、これを背景にして、高血糖や高脂血症、高血圧を引き起こして動脈硬化を急激に進めてしまうのです。
 内臓脂肪が多くたまるタイプの肥満は、男性に多く、リンゴのようにお腹のまわりがぽこっと出てくるのが特徴です。また、女性の肥満に多い皮下脂肪はつまむことが出来ますが、内臓脂肪はつまむことが出来ません。

■メタボリックシンドロームの診断基準
 メタボリックシンドロームは、腹囲が基準になります。即ち、おへその高さで腹囲を測ることで、内臓脂肪がどの程度たまっているかを推測します。皮下脂肪の多い女性は男性より5cm大きくして、腹囲が「男性85cm以上、女性90cm以上」の場合に内臓脂肪型肥満と判断されます。(図-1)
 日本肥満学会で、腹部CTを施行し、内臓脂肪面積が100cm
2を超えた場合に合併症が一段と増加することから、内臓脂肪蓄積基準を内臓脂肪面積100cm2とすることを定めていますが、この基準に準じて腹囲が定められました。メタボリックシンドロームの診断には内臓脂肪の蓄積を簡便で正確に測定することが望ましく、腹部CT検査が良いのですが、一般的ではなく、検診などで使用は出来ませんので、内臓脂肪蓄積を反映する腹囲が診断基準に取り入れられました。(図-2)
 さらに、腹囲に加え、血液中の脂質や空腹時血糖、血圧の値が2つ以上当てはまる場合に診断されます。血糖や血圧の基準値は、一般の糖尿病や高血圧の診断基準よりも厳しくなっています。

■メタボリックシンドロームになると動脈硬化の危険性が増す
 生活習慣が大きく関連する疾患である高血圧、糖尿病、高脂血症は、それぞれが独立して、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性の心血管疾患の危険因子ですが、お互いに高い頻度で合併し、複数の危険因子があれば、ますます危険度が高くなります。(図-3)
 メタボリックシンドロームは生活習慣の欧米化を反映した腹部肥満を基盤に、高血圧、糖尿病、高脂血症が発症し、重積して動脈硬化をさらに促進すると考えるのが基本的な考え方です。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ