暮らしに役立つ 医療のおはなし 46
表-1 成人における血圧値の分類
分 類
拡張期血圧   収縮期血圧
至適血圧
< 120 かつ < 80
正常血圧
< 130 かつ < 85
正常高値血圧
130〜139 または 85〜89
I度高血圧
140〜159 または 90〜99
II度高血圧
160〜179 または 100〜109
III度高血圧
≧180 または ≧110
(孤立性)収縮期高血圧
≧140 かつ < 90
(文献1)より引用)

表-2 生活習慣修正の項目
1. 減塩 6g/日未満
2. 食塩以外の栄養素
 野莱・果物の積極的摂取*
 コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
 魚(魚油)の積極的摂取
3. 減量 BMI(体重(kg)÷身長(m)2)が25未満
4. 運動
 心血管病のない高血圧患者が対象で、中等度の
 強度の有酸素運動を中心に定期的に
 (毎日30分以上を目標に)行う
5. 節酒 エタノールで男性20〜30ml/日以下
    女性10〜20ml/日以下
6. 禁煙
 生活習慣の複合的な修正はより効果的である
*重篤な腎障害を伴う患者では高K血症をきたすリスクがあるので、野菜・果物の積極的摂取は推奨しない。糖分の多い果物の過剰な摂取は、特に肥満者や糖尿病などのカロリー制限が必要な患者では勧められない。(文献1)より引用

表-4 心血管病の危険因子
高齢(65歳以上)
喫煙
収縮期血圧、拡張期血圧レベル
脂質異常症
低HDLコレステロール血症(<40mg/dl)
高LDLコレステロール血症(≧140mg/dl)
高トリグリセライド血症(≧150mg/dl)
肥満(BMI≧25)(特に腹部肥満)
メタボリックシンドローム*
若年(50歳未満)発症の心血管病の家族歴

糖尿病
空腹時血糖≧126mg/dl あるいは
 負荷後血糖 2時間値≧200mg/dl
*メタボリックシンドローム:予防的な観点から以下のように定義する。正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上、女性90cm以上)に加え、血糖値異常(空腹時血糖110〜125mg/dl、かつまたは糖尿病に至らない酎糖能異常)、あるいは脂質代謝異常のどちらかを有するもの。(文献1)より引用

表-5 臓器障害/心血管病
 脳出血・脳梗塞
無症候性脳血管障害
 一過性脳虚血発作 
心臓
 左室肥大(心電図,心エコー)
 狭心症・心筋梗塞・冠動脈再建
 心不全
腎臓
 蛋白尿(尿微量アルブミン排泄を含む)
 低いeGFR*(<60ml/分/1.73m2)
 慢性腎臓病(CKD)・確立された腎疾患
 (糖尿病性腎症・腎不全など)
血管
 動脈硬化性プラーク
 頸動脈内膜・中膜壁厚>1.0mm
 大血管疾患
 閉塞性動脈疾患
 (低い足関節上腕血圧比:AB<0.9)
眼底
 高血圧性網膜症
*eGFR(推算糸球体濾過量)は日本人のための推算式、eGFR=194×Cr-1.094×年齢-0.287(女性は×0.739)より得る(文献1)より引用
高血圧の話  やなせ内科呼吸器科クリニック 循環器医師 山下 恭典

高血圧ガイドラインに基づいた考え方
 今回は高血圧の話です。何をいまさらと言われそうなテーマです。ありふれた病気であるだけに軽視されがちですが、高血圧は全身にかかわる病気なだけに、その初診時には医師としての総合的な判断が必要となります。詳細な診断に基づいた的確な治療が必須なのです。
 最近、2009年度版の日本人向けの高血圧ガイドラインが発表されました。ガイドラインとは、その病気に対する、現時点の医学的に妥当で標準的な考え方や診断法、治療法を示したものです。もちろん病気を持つ患者さんは十人十色ですから、すべての人に当てはまるガイドラインというものはありません。個々の症例ごとに医師が判断をしていく際に、大まかな道標となるのがガイドライン本来の役目です。以下にそれぞれの項目ごとに解説を加えながらガイドラインの中身を説明していきたいと思います。

■高血圧かどうかの判定基準は?
 高血圧の診断基準としては、従来「少なくとも2回以上の異なる日の、診察室での安静時血圧が、収縮期血圧(最高血圧)で140mmHg以上、あるいは拡張期血圧(最低血圧)で90mmHg以上のいずれかあるいは両方の場合に高血圧と診断する」というのが一般的でした。現在のガイドラインではもっと細かな分類がされています。表-1をご覧ください。至適血圧、正常血圧の場合は特別な持病のない方は治療の対象となりません。正常高値血圧とは高血圧予備軍と言っても良いかもしれません。黄色信号というところでしょうか。将来的なことを考えると、これに該当する人は生活習慣の修正を受ける対象となります。(生活習慣の具体的な修正内容につきましては表-2を参照してください。なおその中に書かれているエタノール換算で20〜30ミリリットル以下とは、日本酒換算で1合前後のことです)高血圧はその数値によってIからIII度に分けられています。あなたの血圧はどこに該当するでしょうか。至適ですか? 正常ですか? それとも・・・・・。

表-3 (診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化*リスク第二層のメタボリックシンドロームは予防的な観点から以下のように定義する。正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上、女性90cm以上)に加え,血糖値異常(空腹時血糖110〜125mg/dl,かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常)、あるいは脂質代謝異常のどちらかを有するもの。両者を有する場合はリスク第三層とする。他の危険因子がなく腹部肥満と脂質代謝異常があれば血圧レベル以外の危険因子は2個であり、メタボリックシンドロームとあわせて危険因子3個とは数えない。(文献1)より引用
■あなたの高血圧は高リスク?低リスク?
 高血圧は将来的に脳心血管障害(脳出血や脳梗塞、心筋梗塞や狭心症など)を引き起こしてきます。そのため、治療の対象となるわけです。ただしその危険度はもちろん患者さんごとに異なりますし、正確な予測は正直言って困難です。しかしガイドラインでは、血圧以外のリスク因子と高血圧の程度の組み合わせから、その患者さんの脳心血管障害発生危険度を低リスクから高リスクまでに、ある程度分類するように提案しています。それが表-3です。血圧以外のリスクの項目はいろいろと多岐にわたりますので表-4と表-5をご覧ください。
 たとえば、67歳のAさんが、肥満はあるが他には特に持病のない人で、その血圧が155/85だったとします。表-4から危険因子が2個(年齢と肥満)当てはまります。高血圧の程度はI度高血圧です。リスク第2層の?度高血圧ですから中等リスクです。一方Bさんは50歳で糖尿病治療中であり血圧が142/78だったとすると、リスク第三層のI度高血圧ですから高リスクとなります。血圧だけを見るとBさんの方がよさそうに思えますが、将来的なことを考えるとBさんの方が心配ということになります。さてあなたの脳心血管障害のリスクは低かったでしょうか? それとも・・・・。
 もしリスクが高かった場合は、医療機関で診察を受けて治療計画を立てることになります。治療計画の詳細については次回お話します。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ