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グラム染色と呼吸器感染症1 やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次 今回は内科系のクリニックで診療することの多い急性の呼吸器系感染症を対象にお話を進めます。
呼吸器系には肺炎、気管支炎、咽頭喉頭炎、副鼻腔炎などの感染症が起こり、病原体には細菌、ウイルス、カビ等さまざまなものがあります。急性感染症ではウイルスと細菌が主な病原体です。インフルエンザなど一部のウイルスには抗ウイルス薬が開発され効果を発揮しておりますが、大部分のウイルス感染症は薬剤の力ではなく自分の免疫力で治しているのが現状です。 それに対し、細菌感染症では抗生剤により大部分の細菌が処理可能です。ですから、病原菌を発見しそれに合った抗生剤を使うことが大切になります。抗生剤には(表-1)のように様々な系統の薬剤があります。病原菌によってどの系統の抗生剤が効きやすいかが異なっております。「抗生剤なら何でも効く」ということなら簡単でよいのですが、そういうわけにはいきません。病原菌がみつかればどの抗生剤が効きやすいかがわかるので適切な抗生剤の選択ができます。病原菌が不明なときは、効果の乏しい抗生剤を服用してしまっていることもあり得ます。
病原菌を診断するには様々な方法がありますが、培養法が主流となっています。痰などの検体を細菌検査室に提出し、検査室ではその検体を培養します。細菌が繁殖しやすい養分を含んだ寒天(図-1)の上に検体を塗り、細菌を増殖させます。通常は2日程度すると細菌が増殖するので菌名を決定することができます。次にどの抗生剤が効くかを判定する検査を行います。すべての検査結果が判明するのは検体を提出してから3〜4日後です。医師は自分の知識と経験をもとに病原菌を想定して抗生剤を選択しますが、実は、最初の数日間は病原菌が不明なまま治療を行わざるを得ないのです。 こうした問題を解決するのにグラム染色という方法があります。痰などの検体をスライドグラスに塗り、染色液をかけて光学顕微鏡で観察するだけで病原菌が何かを推定することができるのです。所要時間は15分程度です。 (3)グラム染色の方法 グラム染色は、1884年デンマークの内科医ハンス・グラムによって考案された細菌の染色法です。長い歴史のある検査法で、今でも細菌検査室で行われており、最近、その重要性が再評価されております。当院では開設以来、医師自らが行い病原菌診断を行っております。 この染色をすると細菌が青や赤に染まります。細菌の種類によって色と形が違いますので、訓練を重ねれば主要な呼吸器感染症の病原菌を推定することが可能となります。 痰の場合は(図-2)のようにろ紙の上に痰をひろげ、唾液成分を吸収させます。次に、痰をスライドグラスに塗り、(図-3)の染色液を順々にスライドグラスにかけて痰を染め上げます。その後は、光学顕微鏡で観察し病原菌名を推定します。当院では(図-4)のようにモニター画面に細菌が映し出されますので、患者さんにも病原菌を確認してもらっています。(図-5)は病原菌の代表格の肺炎球菌のグラム染色像です。青紫色の小さな豆粒のような細菌が肺炎球菌です。
次回は、様々な病原菌についてお話します。 |
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |