正常な気管支は、(図1)のように枝分かれしながら徐々に内腔が細くなっていきます。気管支拡張症では(図2)のように枝分かれしても、気管支内腔が細くならなかったり、逆に、袋状に膨らんだりしています。こうした気管支の変形は気管支の一部にだけ起こることもありますし、左右両側に広範囲に起こることもあります。生まれつき気管支の壁が弱いことが原因であったり、小児期の肺炎などの感染症によって気管支の壁が損傷を受けることによって起こったり、原因はさまざまです。いったん気管支が拡張してしまうと、残念ながら元の正常な気管支に戻ることはありません。
気管支拡張症の患者さんの多くは、慢性的に咳、痰が続いたり、血痰が出るなどの症状で医療機関を受診して診断されますが、中には、症状がほとんどなく検診で胸部異常陰影を指摘されて受診される場合もあります。診断には胸部レントゲン写真(図3)やCT検査(図4矢印が拡張した気管支)が必要になりますが、それらの検査で気管支が拡張しているのが確認されれば気管支拡張症と診断できます。その他、肺の働きがどの程度低下しているかを肺機能検査で確認したり、痰の中にどのような細菌がいるのかを調べたりする検査も重要です。
気管支拡張症の気管支はただ拡張しているだけではありません。気管支粘膜に慢性的な炎症が起こっており、痰が多くつくられて気管支内に貯留した状態となっています。健康な状態では、気管支に入り込んだ病原菌を殺菌したり痰として排除したりする仕組みが働き、細菌が増殖するのを防いでいます。気管支拡張症ではこうした防御システムが破綻しており、気管支内に入り込んだ病原体が定着したり増殖したりして、気管支炎や肺炎を起こしやすくなっております。 健康な人はかぜをひいても通常は数日で治ってしまいますが、気管支拡張症の患者さんでは病気が進展し肺炎になってしまうことがよくあります。鼻水、のど痛、咳など風邪様の症状が出たときに、市販の風邪薬だけで対処するのは危険です。速やかに医療機関を受診し、肺炎になっていないか、どんな病原菌が感染しているかなどを検討してもらい、適切な治療を受けるようにしましょう。黄緑色の膿のような痰が出たり、いつもと比べて痰の量が増えたり、色が濃くなってきたら細菌が感染している可能性が高く、抗生剤が必要となるでしょう。
気管支拡張症では、気管支に分布する血管(気管支動脈)が増生しており、血管の破綻によって気管支内に出血することがあります。痰を出すつもりで咳払いをしたら血液が出てきてビックリすることがあります。痰の一部に血液がまじっているのを「血痰」、痰全体が血液である場合を「喀血」と言います。 少量の出血では通常、止血剤と安静で改善しますが、出血量が多かったり、出血が持続する場合は入院治療し、血管内にカテーテルを入れて出血している血管を塞ぐ治療が必要となることがあります。
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |