結核にご用心(1)結核の現状と予防 やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次
戦前は、亡国の病としておそれられた結核。戦後、すぐれた薬が開発され、また生活環境も向上したため非常に少なくなり、2000年頃には地球から撲滅されるとも言われていました。ところが、最近また、結核に感染する方が増えています。1994年にはWHOが世界に向けて緊急事態をアピール。日本でも、1999年に厚生省(当時)から結核に対する緊急事態宣言が出されています。日本での結核の登録患者数を見ると(表-1)、今までずっと減少し続けてきたものが、1997年から増加に転じており、1998年には44016人に達しているのが現状です。新聞等でも、学校や高齢者用施設、医療機関等での集団感染が報じられていることはご承知の通り。特に、薬が効きにくい多剤耐性結核も増加しており、再び猛威をふるおうとしているのです。
■覚えておきたい結核の基礎知識
(1)結核患者の初期症状
結核の主な症状は、咳と痰、そして微熱です。胸の痛みを感じ、痰の中に血がまじることもあり、ひどくなると体重も減少してきます。重症になると、肺の組織が溶けて痰としてでてしまうため、肺の中に空洞ができたりすることもあります。結核の初期症状は風邪とそっくり。風邪の症状が2週間以上も続くようなら、医療機関を受診してみることをおすすめします。
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(2)結核の検査
結核の検査にはいくつかの種類があります。もっとも一般的なのはツベルクリンですが、これは補助的な役割しか果たしません。結核が疑われる場合は、まず痰の検査をします。よく行われるのは塗抹検査と培養検査です。塗抹検査は、痰をガラス板に塗り、結核菌が赤く染まる試薬を用いて菌の有無を見る検査です。この場合、ある程度以上の数の結核菌がいないと見ることができず、塗抹陰性でも、菌の数が少ないことは証明できますが、いないという証拠にはなりません。培養検査は、菌が繁殖しやすい培地に痰を塗り、菌が繁殖するかどうか確認する検査です。また、血液検査も行い、CRPという炎症を示す蛋白や、血沈という値が上昇しているかどうかも調べます。こうした検査を経て、結核かどうかの診断が下されます。
■結核の再流行の傾向
結核の再流行にはいくつかの傾向があります。まず、高齢者の感染が多いことです。表-2に年代別の結核患者さんの数を示します。80代〜90代後半の方の感染が急速に増加していることがわかると思います。高齢の方で、咳、微熱などの症状が長引く場合は、要注意ということです。
もう一つの特徴は、地域差です。全国的に見ると、結核は西日本に多く、東日本では少なくなっています。県別ではもっとも多いのが大阪。東京、三重、和歌山と、九州にも比較的多い県があります。静岡県はちょうど真ん中、やや悪いくらいの数になっています。
結核の深刻な被害が広がっているのが、大都市圏。大阪の西成地区は結核患者が多いことで有名です。西成地区はホームレスが多い地区ですが、その人達の罹患率が非常に高くなっています。横浜、東京、特に新宿などでも、かなりの高率で結核の患者さんがいることになります。 |
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大都市の生活困窮者の間で結核が広がっているということで、既にボランティアなどが救済に乗り出しています。
また、結核に対する自然の抵抗力を持たない若い患者さんも増加しています。若い人は、結核に対する知識も少ないため、症状に気づきにくく、重症化する場合もあります。集団感染が多いのも若年層です。
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■早期発見が完治のポイント
結核にはよく効く薬がたくさんあり、昔のように死に至る病という印象は薄れています。反面、結核への警戒心が薄れたために、症状の発見が遅れ、重症化してから病院に来る患者さんも多いのが現状です。重症になってからでは治療も長引き、後遺症が残ることもあります。また、病院に来るまでの間、知らず知らずのうちに菌をまき散らし、感染を広めることにもつながります。通常、風邪の場合は咳や痰が数ヶ月も続くことはありません。症状が長引いたら、まずは専門医に相談してください。
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また、糖尿病の患者さん、ぜんそく等でステロイドホルモンを服用している人、胃潰瘍などで胃を切除したことのある方は、結核を発病しやすいとされています。こうした患者さんと、その家族の方は、結核に対する知識を深め、予防と早期発見に努めるようおすすめします。
※次回は結核の症状と治療についてお話しします。
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