平均寿命が男性79才、女性86才と長寿社会を実現した現在の日本では、長寿の価値は下落し、「老化」は病気や介護問題とセットで考えられ、人口の高齢化は常に危機感を持って語られています。
身体の老いは逃れる術はありませんし、身体の老いとは別に、仕事からの引退、子供の独立、配偶者との死別など社会生活の変化を経験することによる社会生活での老いもあります。しかし、自分の周囲に目を向けると、元気な高齢者が多いことに気づきます。現在の日本の高齢者の中には、平均寿命の伸びに示される健康水準の上昇と年金制度による経済的安定などから、身体的・経済的・社会的・精神的な自立性が高まり、一昔前の高齢者とはライフスタイルの異なる「ヤング・オールド」と呼ばれる新しいタイプの高齢者たちが増加しています。
「老化」という言葉をよく耳にしますが、老化にはいろいろあります。直接病気と云えない「生理的老化」と、病気と関係が深い「病的老化」。「生理的老化」は健康的老化と普通の老化に分けられます。「健康的老化」は『 花咲ける老化 』とも云われ、病気やその危険因子がなく、社会的に活動し、身体や心を高い水準に保っている状態です。「普通の老化」はわが国での平均的な老化の過程を示すもので、病気ではないが、病気になりやすい状態です。「病的老化」は高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満などそれ自身は日常生活に支障はないが、早晩支援が必要になる病気を起こす可能性のある状態です。
わが国では、「高齢者」とは65才以上のことを指していますが、日本老年医学会では75才以上を高齢者と呼ぶことを提案しています。「高齢者」を定義した50年前の時代の65才と、現在わが国の65才とは、肉体的にも精神的にも、環境面でも大きく異なり、『 花咲ける老化 』を保っている人たちがたくさんおり、「高齢者」は社会的な役割を十分に担っているのが現状と云えます。
スローライフに徹していても、高齢者では一年が早く過ぎ去ります。年齢が増すことは避けられませんが、「健康的老化」を保ち、「病的老化」を防ぐことはある程度可能です。そのためにも、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満にならないよう、若い頃からの生活習慣への配慮が必要になります。また、高齢者ではなんらかの慢性的な病気や症状を少なからず持っていると思いますが、「一病息災」と云われているように、病気があっても日常的に支障がない状態を保つことも可能です。さらに、社会に貢献できるようにライフスタイルを変えていくことも重要になります。高齢者は1人で老いるのではありません。自分は孤独だと思っていても、必ず周りが支えているのであり、お互いに持ちつ持たれつの関係を大切にしていきたいものです。
暮らしの中でみなさんが困るのは、老化そのものによってより、老化から起こる病気、総称して老年病によってです。老年病は、ただ高齢者に多い病気と云うだけではありません。多種多様で併発も多く、回復に時間がかかり、薬の副作用が出やすいことなどの問題があります。
老年病の状態では、1人で多くの病気を抱えることから、その病気を全て薬で治療していると、いわゆる「薬漬け」になることがあります。できるだけかかりつけ医と相談して、薬を整理することが望ましいところです。また、重篤な心筋梗塞を発症しても、胸が締め付けられる典型的な症状が現れずに、病気の診断が困難になることもあります。かかりつけ医と相談し、定期的に検査を受けるなど注意が必要です。
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |