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暮らしに役立つ 医療のおはなし 57

気管支喘息と呼気NO濃度

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

昨年12月2日、「ナイオックス マイノ」(図1)という気管支喘息の診断のための装置で新しいタイプのものが発売され、保険診療で検査することが可能となりました。当院でもこの装置を導入し検査を開始しておりますので、紹介させていただきます。気管支喘息の患者さんの吐く息(呼気)の中には、健康な人の呼気に比べ、一酸化窒素(NO)が多く含まれています。また、他の咳の多い病気では、呼気のNO濃度が上昇することが少ないため、NO濃度を測ることは、気管支喘息の診断に有用だと考えられています。
気管支喘息の患者さんは喘息発作が起こると咳が出たり、呼吸のたびにゼーゼーと音がしたり、息苦しくなったりします。患者さんの気管支粘膜には、好酸球などの細胞が集まり、アレルギー反応を起こしているためです(図2)。その結果、気管支に炎症が起き、粘膜がむくんだり、気管支が収縮したりして空気の通り道が狭くなってしまいます。こうした気管支粘膜の炎症の結果、粘膜の細胞に【誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)】という一酸化窒素NOを作る酵素が増え、喘息患者さんの吐く息(呼気)のNO濃度が高くなります。

■呼気NO濃度は喘息を診断する重要な目安

ある報告によれば、健常な方達の呼気NO濃度の平均は15・9ppb、気管支喘息患者さん達では平均47・3ppbと上昇しておりました(図3)。気管支喘息と似た症状が出るCOPD(慢性閉塞性肺疾患)やその他の咳の多い病気では呼気NO濃度が上昇することが少ないため、呼気NO濃度測定は喘息の診断に有用と考えられています。
ただし、この検査結果だけで喘息と決まってしまうわけではありません。喘息は、発作的な呼吸困難、喘鳴、咳などが繰り返されるという症状、気管支の狭窄が発作止めの薬によって改善すること、他の心臓や肺の病気が否定されることなどを考慮して診断されます。胸の聴診で「ヒューヒュー、ゼーゼー」する音がすること、検査では、肺機能検査、痰の中の好酸球の検査、採血検査、胸部レントゲンなどが重要です。喘息は、こうした症状や聴診所見や各種の検査結果を総合して診断されます。呼気NO濃度測定はこれらの検査のひとつで、喘息を診断する重要な目安となります。

■喘息を疑う呼気NO濃度

喘息を疑わせる症状があり、呼気NO濃度が22ppb以上なら喘息の可能性が高く、37ppb以上なら喘息の診断はほぼ確実と言われています。ただし、呼気NO濃度が低くなりやすい方、逆に高くなりやすい方がいるので注意が必要です。
例えば、吸入ステロイドなどで喘息の治療が始まっている人、たばこを吸っている人などは呼気NO濃度が低くなります。逆に、アレルギー性鼻炎のある患者さんでは呼気NO濃度が高くなります。
こうしたことから、喫煙者でアレルギー性鼻炎のない患者さんでは18ppb以上で、アレルギー性鼻炎がある非喫煙者では28ppb以上で喘息の可能性が高いと判断します。

■検査方法(図4)

装置の大きさは2リットル入りのペットボトルぐらい。患者さんに両手で持ってもらい、背面にセットしたマウスピースをくわえ、一定の速さで10秒間、息を吹き込んでもらいます。約2分間で検査完了です。

■保険診療で検査が可能

保険点数は、検査で100点、判断料140点となっています。1割負担の患者さんで240円、3割負担の患者さんで720円の費用がかかります。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ