増加する高齢者糖尿病をしっかり管理するためには、患者さんが自己管理を充分に行えるか否かを評価することが極めて重要になります。食べ過ぎや運動不足を改善し、血糖のコントロールを良好にすると云う糖尿病の治療の原則には年齢による違いはありません。ただし、高齢者の場合は、これらの生活指導をするにあたり、高齢者の身体機能、精神・心理的機能、あるいは社会的な背景を把握しておく必要があります。そのためにも、「高齢者総合機能評価」を活用し、高齢者の日常生活動作(移動、排泄、摂食、更衣、外出、買い物など)、精神心理的機能(認知機能、うつ状態など)、社会的経済的状況(世帯構成、介護者、家計など)などの生活機能を多面的に評価し、糖尿病の管理ばかりでなく生活上の問題も明らかにします。その上で、主治医を中心に看護師やケアマネージャーをはじめとするコメディカル、さらに、キーパーソンとなる家族を含めたチームで解決策を作成して、生活介助の具体的手段を講じて適切に対処することが重要になります。
高齢者の場合は自立した生活ができる「健康寿命」の延長が重要です。 認知症の発症頻度は非糖尿病の約2~4倍であり、転倒・尿失禁・低栄養・腰痛・膝関節痛などの老年症候群の合併も非糖尿病患者に比べ2~3倍多いと報告されています。高齢者糖尿病では合併症を有する場合が多く、患者さん一人一人の身体的機能や精神的機能のレベルは多様です。 厳格な糖尿病管理を必要とする高齢者糖尿病を「長寿科学総合研究班」が規定しています。それによると
以上のいずれかを満たす場合には、高齢者であっても血糖管理を行うべきであるとしています。 現実的には高齢者糖尿病における血糖管理の目標は、血管障害の有無、他疾患の状態・余命、認知機能、うつ状態の有無、社会・経済的背景などを総合的に評価し、個々の患者さんごとに定める必要がありますが、健常な高齢者はHbA1c 7.4%未満、虚弱な高齢者はHbA1c 8%未満が目標になります。主治医に総合的に評価してもらいましょう。
高齢者糖尿病患者の認知症は、糖尿病のコントロールを悪化させるとともに、ケアの上でも大きな問題になっています。 高齢者糖尿病患者の認知症のリスクは、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症ともに非糖尿病患者の2~4倍になります。MMSEまたは長谷川式簡易知能スケールで認知機能の評価を行い、認知機能低下の原因を脳MRI(CT)などで調べることが重要です。また、認知症でなくとも、認知機能は加齢に伴い低下するので、糖尿病の治療目標や留意点などを口頭だけでなく文書で本人に伝えることや、周囲の家族の人などにも伝えるなどの配慮も必要になります。 患者さんの身体機能や認知機能および心理状態を評価し、家族によるサポートのみならず介護保険などの訪問看護など社会的サービスを利用し、内服薬の管理やインスリン注射を出来るようにすることが重要になります。
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |