スギ花粉症の患者さんは増加傾向にあり(図1)2月になるとスギ花粉の大量飛散により、約2か月間つらい日々を送らなければなりません。治療方法としては、①マスクや眼鏡を使用するなどして花粉を避ける方法、②アレルギー反応を抑える内服薬や点鼻薬・点眼薬などの薬物治療、③厚くなった鼻粘膜を切除する等の手術療法があります。これらは、いずれも症状を緩和する対症療法で、治療効果が不十分であることが少なくありません。それに対し、アレルギー疾患の根本的治療を目標として行われる方法としてアレルゲン免疫療法があります。
アレルゲン免疫療法は、アレルギー症状を引き起こす物質であるアレルゲンを少量ずつ反復投与することで、アレルギー反応を起こす体の仕組みそのものを変えていく治療法です。アレルゲンの投与経路には様々ありますが、代表的なものとして「皮下投与」(皮下注射)と「舌下投与」の二つがあります。日本では1970年代から皮下注射法がさかんに行われてきました。しかし、即効性に乏しいこと、薬物療法が進歩したこと、皮下注射法では少ないながらも全身副作用が出現すること等の理由で徐々に実施されることが少なくなってきました。1986年ダニアレルゲンを用いた舌下免疫療法が登場しました。アレルゲンエキスを舌下に投与する、全身副作用が極めて少ないアレルゲン免疫療法です。その後、スギ花粉症に対する舌下免疫療法の研究が進み、その有効性が証明された結果保険適応となり、本年10月よりアレルゲンエキスが供給できる見通しとなりました。
12歳以上の方が対象となり、年齢の上限はありません。
スギ花粉症に対する内服薬による治療効果は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり等の症状スコアが0.5点程度の改善であると報告されています。それに比し、舌下免疫療法では1.3~1.7点の改善があり、その効果は薬物療法と異なり治療終了後も持続するといわれています。さらに、喘息などの他のアレルギー疾患の発症を予防する効果も示されています(図2)。ただし、舌下免疫療法は全員に効果があるわけではなく、2割程度の人には無効と言われています。
スギ花粉症では、本格的な花粉の飛散の3カ月以上前から、つまり11月以前に開始するのが望ましいと言われています。 最初の2週間は「増量期」で少量から漸増し、3週目からは「維持期」となります。維持期では、薬液を1日1回1ml舌下に滴下し、2分間保持し飲み込みます(図3)。その後、5分間はうがいと飲食をしないようにします。
2年間毎日これを繰り返します。
皮下投与によるアレルゲン免疫療法では、約800回に1回の頻度でアナフィラキシーショック(重篤な全身副作用)が出現しておりましたが、舌下投与でのアナフィラキシーは1億回に1回と非常に少なく、死亡例もなく安全な治療法といえます。 舌下免疫療法の副作用のほとんどが、口腔・舌・口唇の腫れやかゆみ、のどのかゆみなどの局所症状です。日本で1000人以上に行われたスギ花粉症に対する舌下免疫療法では、5%程度の患者さんに局所の副作用が出現しておりますが、全身性の副作用は発生していません。海外の舌下免疫療法の報告では、全身副作用として腹痛・嘔吐などの消化器症状、じんま疹、喘息発作などが主なものとして報告されています。
舌下免疫療法は数か月から半年かけて治療効果が出現し、さらに長期間継続することでより効果が上がります。短期間で中断せず2年間しっかりと治療継続することが大切です。治療は表に示した事項について確認したうえで開始することになります(表1)。図表はいずれも「舌下免疫療法の実際と対応」(日本鼻科学会編)より
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |