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特集「糖尿病教室」 No.25

高齢者糖尿病の管理と治療について(その2)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

高齢者糖尿病の管理と   治療について(その3)

超高齢社会に伴い、高齢になってから糖尿病になる方が多くなっています。また、糖尿病の患者さんの半数近くは高齢者であり、加齢による身体や生活環境の変化が、糖尿病の長期管理に影響を与えています。

高齢者では加齢とともに耐糖能が低下し、糖尿病患者の割合が増加していますが、糖尿病でなくとも血糖値は年齢とともに上昇しやすく、食前の血糖値は正常でも食後の血糖値が著しく上昇することがあります。糖尿病でない方は、糖尿病域の高血糖が持続しなければ、脳梗塞や心筋梗塞などの大血管症も含め糖尿病血管合併症は発症しにくいと考えられています。また、糖尿病域の高血糖の持続が数年以内の場合は、治療によって血糖を降下させるなどの糖尿病の管理に加えて血圧や脂質の管理などをすることで血管合併症の発症や進展を押さえられ、軽症の網膜症や腎障害は軽快します。しかし、糖尿病域の高血糖が約10年前後も続いている患者さんには、血糖の管理をしても血管合併症の発症や進展を押さえることが困難です。糖尿病は早期診断と早期治療が重要になります。

高齢になって、初めて糖尿病と診断された時に、もう年だからといって気にしないで過ごすのではなく、高齢者でも早めに血糖の管理をすることが重要になります。

■実際の治療の進め方

高齢者の糖尿病診療では、患者さん一人一人の状況を十分配慮した血糖管理と、低血糖リスクを避けることが重要になります。

高齢者では、糖尿病の有無にかかわらず動脈硬化性疾患が多発し、さらに心身機能の老化により自立した生活が困難になり、要介護となる方もいます。高齢者糖尿病で要介護のために糖尿病の治療が困難となり、合併症が進展し、さらに、重度の要介護状態に陥るという悪循環が生じることがあります。

米国糖尿病学会でも、高齢者糖尿病患者の血糖管理目標の設定する際に考慮すべき項目を「表1」のように提案しています。また、臨床の現場から相澤(慈泉会相澤病院)らは、高齢者の血糖管理目標を決める際に優先的に考慮するべきものとして

  1. 基礎疾患の有無と重症度
  2. 認知症の有無と程度
  3. 予想される健康余命と年齢(表2)
  4. 血管合併症の重症度、糖尿病罹病期間

を挙げています。

個々の患者さんについて、この4項目から総合的に判断し、血糖管理目標を定めるとしています。

比較的健康な社会生活を送っていて重篤な基礎疾患のない、いわゆる元気なお年寄りならHbA1c 7%前後、重篤な基礎疾患で生命予後が限られたり、認知症が進行していたり、その他の疾患で寝たきりであったりすれば、明確な口渇・多飲・多尿がなくて、高血糖高浸透圧性昏睡やケトアシドーシス(注)が起こらないレベルで最も緩やかな目標としてHbA1c 8~8.5%程度としています。(注)高血糖高浸透圧性昏睡とケトアシドーシスについて  「昏睡」は意識障害が高度で音や痛みの刺激があっても目が覚めない状態を云います。糖尿病の患者さんにおこる昏睡は「高血糖高浸透圧性昏睡」と「ケトアシドーシス性昏睡」があります。「高血糖高浸透圧性昏睡」が高齢者に多くみられ、著しい高血糖と飲水量の不足によって脱水がひどくなり、血液が極端に濃縮されておこります。感染症、脳卒中、副腎皮質ステロイドや利尿剤の頻用などが原因になります。著しい脱水症状とともに意識障害、痙攣などの症状を示すため、脳卒中と間違われることがあります。ケトアシドーシスは1型糖尿病に主にみられ、糖尿病発症時やインスリン注射を中断した時、あるいは感染や外傷で極端にインスリンが不足した時におこります。ただし、2型糖尿病では最低限のインスリンは分泌されていますので、ケトアシドーシスにはならないか、なっても軽いのが特徴です。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ