トップへ戻る

暮らしに役立つ 医療のおはなし 68

老化と健康 (その6)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

高齢者の日常生活機能を著しく損なうサルコペニア(老化に伴うさまざまな身体機能低下)と、その要素を含むフレイル(虚弱)は、後期高齢者が急増する中で注目を集めています。前回に続いてサルコペニアについて解説していきます。

■サルコペニアについて(つづき)

高齢になれば、特に病気がなくても老化を背景に心身の機能が低下し、生活上の不具合が現れてくるようになります。急性の病気と異なり、全身的かつ慢性的で徐々に進行するため、本人もなかなか気付きません。放置していると確実に状態が悪化して、要介護、廃疾に至る状態に進んでいきます。この過程にサルコペニアやフレイルの状態があり、サルコペニアを早期に察知し予防・介入することで、要介護への進行を少しでも遅らせることになります。


4.サルコペニアの対策

加齢にともなうさまざまな機能変化の中でも、歩行能力、運動機能、視力、記銘力、腎機能をはじめとした人間の身体機能、生理機能は年齢とともに低下してきます。また、加齢にともない性ホルモンなどのホルモン動態にも大きな変化が生じて来ます。さらに、加齢にともなう筋量の減少、筋力低下により、高齢者の身体機能はいっそう低下し、ADL(日常生活動作)がより困難になり、転倒や骨折により要介護の状態に陥ることが多くなります。このような背景が想定されるサルコペニアの予防には運動を主体にしたプログラムが有用ですが、栄養(特にタンパク質)との併用介入が有効と考えられています。さらに、加齢による性ホルモンやビタミンDなどの動態と筋量、転倒リスクなどとの関連性についても次第に明らかになって来ており、栄養・運動と薬剤などの効果的な使用によるサルコペニアの予防も明らかになって来ています。

(1)サルコペニアの原因

サルコペニアはライフスタイルの改善によって十分に予防・改善が可能であり、適切な食習慣と日々の運動が大切になります。  サルコペニアの予防や治療の第一歩は、しっかりと栄養を摂ることが重要であり、食事は3食規則的に摂り、タンパク質量を十分に確保することです。また、高齢者のビタミンD不足も深刻であり、日々の食事での栄養素として蛋白質やビタミンDの摂取を習慣化することが大切です。蛋白質は肉や魚、大豆などに多く含まれており、ビタミンDは魚やキノコに含まれています。  高齢者では、食欲低下をはじめ種々の要因によって低栄養や栄養障害を来たしやすく、さらには、低栄養や栄養障害自体がサルコペニアなどの機能障害やフレイルの要因となり、予後不良の指標になります。低栄養に関連したサルコペニアはエネルギーとタンパク質不足が原因です。高齢者における栄養状態の評価とそれに基づく適切な介入はサルコペニア・フレイル対策の点からも重要になります。

(1)サルコペニア予防に向けた運動

高齢者でも積極的な運動を実施することで、筋力および骨格筋量の増加効果があります。中でも筋トレ(レジスタンストレーニング)には筋力増強および筋量増加の効果あることから、サルコペニアの予防・改善を考える上で重要な運動です。  具体的なトレーニングの方法は図に示すようなハーフスクワットやランジ、下肢挙上運動、それに椅子座位でのステップ運動、お尻上げなどが有用です。また、高齢者にとってはウオーキングもよい運動になります。1日あたり8000歩が目安で、少しずつ歩数を増やしていきましょう。ある程度ウオーキングに慣れて来たら、やや早歩きや大股歩きを取り入れるとサルコペニアの予防に有用です。  サルコペニアの改善を目指す場合は運動療法に栄養療法を加えることが効果的で、運動(筋トレ)に蛋白質摂取を強化することで筋力増強および骨格筋量増加の有用性が示されています。


図トレーニング方法の説明

これらの運動はゆっくりと実施するのが効果的であり、10回1セットとして3セットくらい実施するのが効果的。 ステップ運動は1秒間に2ステップぐらいのペースで行う。音楽に合わせて3〜5分程度を目安に実施する。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ