トップへ戻る

暮らしに役立つ 医療のおはなし 67

認知症と地域社会(その2)

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

認知症では、記憶障害や判断力の低下など様々な症状がでてきますが、患者さんごとに症状の出方や進行の仕方が異なります。認知症にもいくつかの種類があります。アルツハイマー型認知症は有名ですが、その他の血管性認知症、レビー小体型認知症を合わせて認知症の三大疾患と言われています(図1)。これらの疾患の特徴を知ることは認知症患者さんの行動を理解することにつながると思います。

■アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多い疾患です。脳にβアミロイドという物質がたまり、神経細胞が障害されて徐々に進行します。症状の中心は記憶障害で、早い段階から「もの忘れ」が出ます。近い出来事から忘れるようになり、進行すると古い記憶も失われて行きます。経験したことの一部分ではなく丸ごと忘れてしまうことが多く、例えば、今朝の食事のおかずを思い出せないというより食べたこと自体を忘れてしまうため、「まだごはんを食べていない」と言い張り、周囲の人ともめることがあります。

他には時間、季節、場所などがわからなくなることで、季節に合わない服を着たり、迷子になったりすることがあります。料理、買い物、薬の自己管理などができなくなり、日常生活に支障をきたすようになります。進行すると、歯磨き、着替え、尿や便の排泄行為がうまくできなくなり、より多くの介護が必要となってきます。

病気の進行を遅らせる目的で、ドネぺジルなど4種類の抗認知症薬が使用できるようになっています。


■血管性認知症

血管性認知症はアルツハイマー型認知症の次に多く、脳梗塞や脳出血など脳血管障害が原因の認知症です。認知症としての症状は、アルツハイマー型認知症と大きな違いはありません。破綻した脳血管の部位に応じて、麻痺、嚥下障害、失語等の症状を伴います。わずかの刺激で泣いたり笑ったりする感情失禁がみられることがあります。病気の経過では、脳血管障害を再発するたびに認知症症状が大きく進む階段状の進行をとることが多いのが特徴です(図2)。  治療で大切なのは、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、心房細動などの治療を行い脳血管障害の再発を予防することです。アルツハイマー型認知症を合併している場合もあり、ドネぺジルなどを併用することがあります。。


■レビー小体型認知症

血管性認知症に次いで多いのが、レビー小体型認知症です。神経細胞にレビー小体という構造物が出現し、細胞が変性して行きます。レビー小体はパーキンソン病の脳細胞にも出現します。レビー小体型認知症とパーキンソン病は親戚関係にある病気なのです。

レビー小体型認知症の特徴的な症状は、筋肉が固く動きづらく動作が緩慢になるパーキンソン症状を伴うことです。もう一つは人や動物などの生々しい幻視がみられることです(図3)。その他、睡眠中(レム睡眠中)に夢遊病のように大声で叫んだり、怒ったり、暴れたりする異常行動が見られることも少なくありません。この疾患では、「もの忘れ」は軽いことが多く、初期にはほとんど目立たないこともあります。

治療は、認知症状に対してドネぺジルの投与が保険適応となりました。必要に応じてパーキンソン症状や幻覚に対する治療も行われます。

簡単でしたが、認知症3大疾患の特徴をみてきました。認知症は私たちの家族や自分自身がいずれ発症する可能性のある疾患です。薬物治療で治すことのできる病気ではないだけに、周囲の人たちが病気のことをよく知り適切に対応することが、患者さんの生活と療養にとって大切になります。病気のことをよく知れば、健康な人には理解困難な患者さんの言動や行動が、患者さんの性格や悪意によるのではなく、認知症の特徴であることが見えてきます。今まであまりよく知られていなかった認知症のことを学び合うことは、患者さんを家族で介護し、地域で支え合う社会をつくる上で、とても重要なことだと思います。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ