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暮らしに役立つ 医療のおはなし 69

ゴールが見えたC型肝炎

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

慢性C型肝炎のウイルス感染は撲滅可能な時代になりました!

■C型肝炎の治療に大きな進展がありました

日本では300万〜370万人いるC型肝炎ウイルス(HCV)感染者は、高頻度に持続感染して、慢性肝炎から肝硬変、さらには肝癌を発症します。毎年約3万人が肝細胞癌で死亡し、その約80%はHCV感染者が占めていました。C型肝炎の治療は、非A非B肝炎とされていた時代から約30年大きく進化してきました。

1989年にC型肝炎ウイルスが発見され、1992年にはインターフェロン(IFN)療法が開始されましたが、ウイルスの排除が出来たのは約30%に過ぎませんでした。

2004年にペグインターフェロン(PEG‐IFN)とリバビリンの併用療法が可能になりました。この治療法により、ウイルスの排除が出来たのは遺伝子型2型で90%、日本に多い遺伝子型1型が約50%となり、肝癌撲滅を目指して慢性C型肝炎の治療が積極的に行われるようになりました。その後、副作用の少ない週1回投与のPEG‐IFNも登場しましたが、治療を開始すると倦怠感、発熱、貧血などの副作用で中止せざるを得ない患者も多数存在していました。


■直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場でIFNフリー療法が実現

2011年にはHCV蛋白分解酵素の阻害薬であるテラプレビル、2013年にはシメプレビルが登場し、PEG‐IFN、リバビリン3剤併用療法で、それぞれ70%および90%の患者さんについてウイルスの排除が出来るようになりました。しかし、IFNによる白血球減少、血小板減少、うつ状態の増悪などの副作用のため、高齢者や肝硬変患者、うつ傾向のある方の治療は出来ませんでした。その後、IFNを使用せずにDAAのみでの治療(IFNフリー療法)が導入され、飛躍的にC型肝炎の治療が向上しました。

2014年9月には経口HCVNS5A複製阻害薬のダクラタスビル(DCV、ダクルインザ錠)と経口NS3蛋白分解酵素阻害薬のアスナプレビル(ASV、スンベプラカプセル)併用療法の登場で、これまでIFNやリバビリンで治療出来なかった患者さんも治療が可能になりました。肝機能が極端に低下していないかぎり、肝硬変の患者さんも含めてほとんどすべてのHCV感染患者さんでHCV排除を目的にした治療がIFNなしで可能になりました。この治療はHCV薬剤耐性遺伝子変異がない場合90%以上で著効が得られましたが、遺伝子変異がある場合に著効率40%、さらに約8%に重篤な肝障害が認められていました。

さらに、2015年8月、NS5A阻害薬レジパスビル(LDV)とNS5Bポリメラーゼ阻害剤ソホスブビル(SOF)の2種類の薬剤の合剤であるハーボニー配合錠が登場しました。HCV薬剤耐性遺伝子変異の問題もなく、腎障害の患者さんに使用できない以外は安全性に問題なく、著効率が95〜100%と極めて高く、1日1回1錠12週間の投与と治療期間も短縮されて、遺伝子型1型の治療の主流となっています。なお、ヴィキラックス配合錠(オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル)も出ましたが、NS5A領域のY93変異がない例では99%、変異がある例では83%の著効率となっています。但し、腎障害の患者にも使用可能です。

遺伝子型2型は2015年3月にソバルディ錠(ソホスブビル)とリバビリン(レベトールカプセル、コペガス錠)の12週の併用で、ほとんどすべての患者でHCVを排除出来るようになりました。

 「C型肝炎や肝硬変の最終的な治療目標は、肝硬変進展による肝不全への移行を防ぎ、肝がんの発症を抑制する」ことです。IFN治療によって持続的にウイルスが排除された患者からも0.9〜4.2%に発癌が認められており、「ウイルス排除後も発癌のリスクはゼロにならない」ので、治療後も超音波検査、CT、MRIなどを年に一度は実施していくことが大切です。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ