サルコペニアと糖尿病
血糖値が高くなると筋肉量は減少し、高血糖と神経障害により筋肉の質も低下します。そのため糖尿病患者は、非糖尿病患者と比べて筋肉量、筋力、身体能力、バランス能力が低下しやすく、転倒しやすいことも知られています。高齢者になるとサルコペニア(加齢による筋肉量減少と筋力低下)がそれに拍車をかけます。 糖尿病の一因であるインスリン抵抗性は、内臓脂肪の増加や筋肉量の減少により引きおこされることから、「インスリン抵抗性そのものがサルコペニアの原因でもあり、結果でもある」と考えられています。
糖尿病患者には肥満者が多く、肥満とサルコペニアの合併した「サルコペニック・オベシテイ」という病態も注目されています。減少した筋肉の代わりに脂肪が増えた状態で、肥満者では筋肉内にも脂肪が蓄積してインスリン抵抗性がもたらされ、筋力低下が起こって来ます。肥満による活動性の低下はサルコペニアを進行させます。サルコペニック・オベシテイはADL(日常生活動作)を低下させ、歩行障害や転倒を起こしやすいといわれています。
基本的ADLと手段的ADL 身体機能には基本的ADL(BADL)と手段的ADL(IADL)、視力、聴力、移動能力などがあります。 「基本的ADL」は自立した日常生活をする上での基本となる機能で、移動、椅子への移乗、食事、トイレの使用、整容、入浴などが自立しているかを示します。 「手段的ADL」は基本的ADLより複雑な活動で、買い物、料理、家事一般、金銭の管理、薬の管理、電話の使用、外出または交通手段の利用などが出来るかを示します。手段的ADLの低下は認知症の早期診断の手がかりとなります。 高齢糖尿病患者は糖尿病でない人と比べると手段的ADLの障害が2〜3倍多く、80歳以上の高齢糖尿病患者は、より顕著に手段的ADLの障害が多くなり、交通機関を使っての外出、買い物、料理などが困難になります。
高齢糖尿病患者の治療では、合併症を防ぐだけでなく、身体機能を維持することが大切です。自立した生活が送れる状態は「ADL自立」といわれます。買い物、食事の用意などの複雑な活動が出来なくなった状態を「手段的ADL低下」といい、軽度の身体機能障害です。さらに障害が進むと、入浴、着衣、トイレの使用などの基本的日常生活動作が出来なくなり、「基本的ADL低下」があるといいます。また、手段的ADL低下の段階から歩行速度は遅くなり、転倒しやすくなり、認知機能障害にもなりやすくなります。 身体機能の悪化を防ぐための対策は、運動と食事、適切な血糖コントロールです。特に、運動は歩行などの有酸素運動だけでなく、サルコペニアひいてはフレイルを防ぐために負荷をかけた筋力トレーニング(レジスタンス運動)を行うことが大切です。(図)レジスタンス運動には他にもロコモ体操、プール歩行、自転車こぎなどがあります。食事はバランスの良さを心がけ、十分なエネルギーと蛋白質を摂ることが大切です。
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |