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特集「糖尿病教室」 No.30

高齢者糖尿病の管理と治療について(その8)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

「超高齢化社会」を迎え、日本糖尿病学会と日本老年医学会が合同で高齢者糖尿病の治療を見直し、血糖コントロール目標値を発表しました(糖尿病教室No28)。ここで改めて、高齢者糖尿病の特徴や治療など療養の心構えをまとめてみました。

■高齢者は個人差が大きい

現在制度上、65歳以上が高齢者とされていますが、65歳以上75歳未満の前 期高齢者と、75歳以上の後期高齢者に分けて考えられています。身体機能や認知機能が低下し、支援や介護を要する人の割合が増えてくるのは75歳以上ですので、医学的にも意味がある分け方でしょう。糖尿病の合併症である脳卒中や心不全は、高齢者の中でも80歳以上で最も多くなります。また、糖尿病の治療で起こってくる重症低血糖も同様です。(図1)重症低血糖とは、意識障害が起こり、治療をしなければ回復しない低血糖です。個人差の大きな高齢者の治療は、身体機能や認知機能などの基準により血糖コントロールの目標値を定め、より安全に行うことが必要です。

■高齢者は低血糖に特に注意

空腹時や食後などで血糖値は変動しますが、血糖値70(mg/dl)以下は低血糖とされています。これよりさらに血糖値が低くなるとさまざまな症状が起こって来ます。発汗、動悸、手のふるえが起こりますが、高齢者ではこれらの典型的な低血糖症状がないことが多く「頭がくらくらする」「体がふらふらする」「めまいがする」「脱力感がある」などの非典型的な低血糖症状が出ます。このため、低血糖が見逃されることがありますので、ふらつきや倦怠感など、いつもと違う症状が出た場合にブドウ糖を飲んでみましょう。(図2)  重症の低血糖を起こすと、高齢者では転倒、認知症、脳梗塞、心筋梗塞などの心血管疾患、さらには、死に至ることもあります。軽症の低血糖でも、転倒、一時的な認知機能障害、うつ状態になることがあります。  インスリンやスルホニル尿素薬で治療中の患者さんで重症の低血糖は起こりやすいので注意する必要があります。高齢者では低血糖を起こさないように血糖の管理と治療をすることが大切です。

■高血糖も重症低血糖も認知症を引き起こす

糖尿病患者さんは、約1.5倍認知症になりやすく、軽度認知障害にも約1.2倍なりやすいといわれています。前項で書いたように重症の低血糖は認知症を引き起こします。また、未治療の糖尿病患者さんのような高血糖の人は認知症になりやすいことがわかってきています。更に認知症の人は、認知機能障害が進行するにつれて重症の低血糖を起こしやすくなります。  高齢の糖尿病患者さんは、認知機能を維持するために、高血糖にも低血糖にもならないように血糖コントロールをすることが大切です。

■身体機能を維持するために

高齢の糖尿病患者さんの治療の目的は、合併症を防ぐだけでなく、身体機能を維持することにあります。身体機能の悪化を防ぐためには、食事療法と運動療法で適切な血糖のコントロールを行うことが大切です。食事療法では、バランスの良い食事を心掛け、十分なエネルギーと蛋白質を摂ることが大切です。運動療法では歩行などの有酸素運動だけでなく筋力トレーニングが必要です。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ