暮らしに役立つ 医療のおはなし 75
喘息あれこれ(その2)
やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次
効果的な吸入治療のために
Ⅰ.吸入薬は喘息治療の主力
患者さんから「内服の方が簡単で、吸入は面倒くさい」とか、「飲み薬は忘れないが吸入は忘れる」とか言われることが
少なくありません。しかし、気管支喘息治療の中心は内服薬ではありません。吸入薬とくに吸入ステロイド薬が治療の主力となっています。それは内服薬より効果が大きく副作用が少ないからです。
Ⅱ.気管支喘息はノドではなく気管支の病気
発作が起きている時に、「ノドがゼーゼー鳴っている」ように感じる患者さんもいますが、ノドに主たる異常があるのではありません。気管支喘息の名の通り、ノドではなくもっと奥の気管支で病気が起 こっているのです。ですから、吸入薬は気管支に届いてこそ効果がでるのです。口やノドに付着した吸入薬は副作用を起 こすだけで、治療の役には立ちません。
Ⅲ.正しい吸入することが大切
では、気管支に薬が入ったことをどのように確認したらよいのでしょうか?吸入薬が気管支に入っても、通常は何も感じません(まれに、薬の刺激で咳が出る人 もいます)。自分で実感することはできないので、正しい吸入方法を習得するしかありません。飲み薬は、口の中に薬を入れ 水と一緒に飲み込めばよいので、「正しい内服方法」が問題となることはあまりあ りません。その点で、吸入薬は面倒な薬 ですが、1〜2か月間吸入方法をご自分 やクリニック、薬局で点検を重ねてゆくと、ほとんどの患者さんが正しい方法を習得できるようになります。
Ⅳ.吸入薬の種類
数多くの吸入薬が発売されていますが、その性質から大きく2つに分類されています。
- ドライパウダー式吸入薬(DPI)図1
器具に入った粉薬を吸入するタイプの薬です。勢いよく強く吸い込む必要があり、息を吸う力の弱い人には不向きです。
- 定量噴霧式吸入薬(pMDI)図2
器具からガスと一緒に噴射される霧状の薬剤を吸入するタイプの薬です。DPIのように吸い込まないと器具から薬が出てこない訳ではないので、勢いをつけて強く吸う必要はありません。ゆっくり大きく吸い込むことがポイントです。その際、歯で吸入口をくわえ、唇を閉じず隙間をあけて吸い込むと薬が気管支に入りやすくなります。噴霧と吸い込みのタイミングがどうしても合わない場合は、スペーサー(図3)を活用するのも有効です。
Ⅴ.正しい吸入法
どのような吸入薬でも以下の点は重要です。
- 背筋を伸ばす
こうすることで、深く薬を吸い込むことができるようになります。
- 舌を下げてノドの奥を拡げる吸入器の吸入口の下に舌を入れ、「ホ」を発音するように意識するとノドの奥が拡がり、薬が気管支に入りやすくなります。
- 鼻からゆっくりとはき出す
気管支喘息の患者さんはアレルギー性鼻炎を合併していることが多く、鼻からゆっくりはき出すと吸入薬中のステロイドが鼻炎の治療にも役立つことが期待できます。アレルギー性鼻炎の無い人では鼻呼出の必要はありません。
【 副作用対策 】
吸入薬を継続しているうちに声がかすれたり、口内炎ができたり、時にはカンジダというカビが口の中の粘膜を傷つけることがあります。これは、口やノドに薬が残ってしまうためです。こうした副作用を予防するために以下のことをしっかり行いましょう。
- うがい
口をブクブク、ノドをガラガラとうがいしましょう。それぞれ3回ずつ。
- 食前吸入
吸入した後、うがいしても残った薬が食べ物で拭われてきれいになります。
- 「ホ」を発音するように意識して吸い込む
こうすることで舌が下がり、薬が舌に付着することが少なくなります。一部の吸入薬で甘い味を感じることがありますが、これは舌に薬が付着しているためです。
- 口腔内が乾燥している時には、吸入前もうがいして湿らせる
カンジダが繁殖しにくくなります。
|
|
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |