結核にご用心(2)結核の症状と治療 やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次
■初期症状は風邪とそっくり。やがて胸の痛みや体重減少が。 |
結核の中でよく知られているものは肺結核ですが、他にもいくつかの種類があります。胸に水がたまるだけの結核(結核性胸膜炎)や骨の結核(カリエス)、結核による髄膜炎などです。今回は、肺結核の症状をご紹介します。
代表的な症状は咳です。風邪による咳は短期間でおさまりますが、結核菌の感染による咳は長く続きます。2週間以上咳が続くようなら結核菌のことも念頭に置く必要があります。(図-1)次いで、熱が出ます。38℃、39℃という高熱が出る場合もありますが、多くは微熱です。疲れやすく、夕方になると37℃あまりの微熱が出るという症状が続くようなら要注意です。
肺を包む膜に病変が及ぶと、胸に痛みを感じるようになります。胸の壁の内側の膜は、もっとも敏感な所です。炎症がその膜にまで達すると強い痛みを感じるようになるのです。
これらの症状が、比較的ゆるやかに進むのが肺結核の特徴です。初期の頃には何の症状もない場合もあり、検診などで肺のレントゲンを撮り、初めて発病がわかることもあります。
■感染が確認されても慌てないで!結核に対する対処法とは?
結核でもっとも心配されるのは、他の人への感染です。ご本人が発病を自覚していない初期の段階でも、排菌は始まっており、他の人にうつしてしまう可能性があります。早期発見・早期治療が重要なのは、感染を予防するためでもあるのです。しかし、結核に感染したからと言って、パニックになる必要はまったくありません。感染と発病はまったく異なります。まず、そこをきちんと理解することが大切です。(図-2)
|
|
人の身体の中に結核菌が入ると、リンパ球やマクロファージなどの肺の中にある細胞が反応し、しばらくすると身体の中で抵抗力ができます。ほぼ1ヶ月もすれば、身体の中に結核菌に対する抵抗力がつき、次第にツベルクリン反応が陽性になります。抵抗力が完全にできてしまうと、結核菌は肺の片隅に封じ込められ、石灰沈着します。要するに、固まって冬眠してしまうわけです。この過程では、結核菌をばらまくことは基本的にありません。
結核に感染した人の約9割は、こうした反応を起こして菌を封じ込め、発病にはいたりません。従って、発病していなければ肩身の狭い思いをする必要もなく、普通に日常生活を送ってかまわないのです。
ただし、高齢になって身体が弱くなったり、病気になって抵抗力が落ちたりすると、眠っていた菌が目を覚まして、先に述べたような症状がでてくることがあります。これを「発病」と言います。「発病」してはじめて他の人にうつすようになります。結核菌に感染した人は、結核菌を保有していることを自覚し、症状を感じたら積極的に検査するよう心がけることが大切です。
|
|
■2〜4種類の薬剤を用いて治療。約半年間で治ります。
運悪く発病してしまった場合は、服薬を中心とした治療を行うことになります。現在は、様々な優れた薬品が開発されており、それらを効果的に使えば約半年間の治療で完治します(症状により治療期間は異なります)。 |
結核の薬として有名なのは、イスコチン(INH)です。古くからある薬で、1950年頃から結核治療のエースとして活躍しています。その他のエース格としては、ストレプトマイシン(SM)、エサンブトール(EB)、リファンピシン(RFP)、ピラジナマイド(PZA)などがあります。
結核の治療のもっとも大きな特徴は、絶対に1種類の薬だけを使い続けないということです。結核を発病した人の肺の中には、無数の結核菌がいます。中にはしぶとい菌もいて、1種類の薬だけでは全てを退治することができない場合もあるのです。そこで、リファンピシンに抵抗力を持っている菌をイスコチンで退治し、イスコチンでは退治できなかった菌を別の薬で、という具合に、複数の薬を組み合わせて使いながら、菌を絶滅させるまで治療を続けます。ですから、結核の治療では必ず、最低でも2種類の薬、通常4種類を組み合わせて治療するのが原則になります。一般的な例では、イスコチンとリファンピシンを半年間飲み、それにPZAという粉薬を治療初期の2ヶ月間飲みます。こういう治療にストレプトマイシンまたはエサンブトールを組み合わせて治療し、全体を半年で終わるのが標準的な治療方法です(お薬が飲めないとか、菌の量が少ないので弱めで良いときは薬の数を減らすことはあります)。(図-3) |
|
早めに発見、治療すれば、結核は怖い病気ではありません。咳や痰など風邪に似た症状が長く続いたり、微熱やだるさがおさまらないなどの異常を感じたら、早めに医療機関を受診してみてください。早期発見、早期治療を心がけ、再流行をくい止めて、世界中から結核を撲滅しましょう。 |
|
|