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暮らしに役立つ 医療のおはなし 77

糖尿病と膵疾患 (その3)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

膵癌について(1)

■膵癌は早期発見が難しい?

2003年夏号(大地Vol.7)膵臓の病気(2)で膵癌のはなしをしました。 その後15年を経た現在も膵癌は予後の悪い癌の一つであり、診断技術の向上にもかかわらず、手術が出来ない進行した段階で診断される症例が未だに多数を占めています。  
 人口動態統計(2012年)によると、癌で死亡した36.1万人のうち最も多いのは肺癌ですが、約5割に当たる18.9万人は消化器癌によるもので、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌が上位を占めています。胃癌や大腸癌の5年生存率は50%を上回っていますが、膵癌は20%にも達していません。  
 それでも、日本膵臓学会が1981年から行って来た膵癌登録の結果によると、この30年間で膵癌全体の5年生存率は約2倍に改善してきています。

■糖尿病や肥満、喫煙、大量飲酒は膵癌の危険因子である

膵癌は年齢とともにリスクが増加し、75歳以上の高齢者でその傾向が強く、男性にやや多いです。喫煙も1.68倍リスクを増加させ、喫煙本数と相関しています。飲酒(エタノール37.5g以上)も膵癌リスクを増加させます。  
 肥満は欧米の先進国では主要な健康上の問題になっています。わが国でも20歳代の男性でBMI30以上の肥満者では、膵癌リスクが3.5倍増加することが報告されています。肥満は膵癌のみならず多くの臓器癌の危険因子でもあり、肥満の防止は疾患予防のための重要な課題となります。  
 肥満とともに患者数が増加している糖尿病は膵癌のリスクを1.94倍に増加させ、1年以内に発症した糖尿病は特に危険因子になります。また、膵癌の発症からさかのぼり5年以内に糖尿病を発症していた患者は40%にのぼるとの報告もあります。
(膵癌診療ガイドラインより)


■膵癌を早期に診断するために

膵癌は周囲組織の破壊や膵管閉塞によって膵実質の萎縮をきたし、耐糖能を悪化させます。そのため、新規発症の糖尿病や急激な血糖コントロールの悪化がみられる症例については腹部超音波検査(腹部US)をはじめCTやMRIなど各種画像検査を行い、膵癌合併の有無を確認する必要があります。(図)  
 腹痛、食欲不振、腹部膨満感、体重減少、背部痛などの症状を認める場合も膵癌の可能性を考慮して検査を行います。アミラーゼなどの膵酵素、CEA、CA19‐9などの腫瘍マーカーの測定も膵癌の診断に一定の有用性があります。  
前述した危険因子を複数有する場合や膵癌家族歴がある場合も、膵癌の可能性を考慮して検査を行うことが望ましいです。
(膵癌診療ガイドラインより)


発行/萩野原メディカル・コミュニティ