高齢者糖尿病と老年症候群糖尿病と認知症(その2)
2型糖尿病は血管性認知症やアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めていますが、糖尿病と関連する認知症の背景は多様です。 糖代謝異常に伴う神経細胞障害が認知症の発症に深くかかわっている「糖尿病性認知症」と呼ばれている認知症は、2型糖尿病を有する高齢者認知症の約10%を占めています。高齢で、HbA1c(ヘモグロビン・エイ・ワン・シー)が高く、罹病期間が長い、インスリン治療例に多くみられます。注意力や遂行/実行機能(注1)の障害は高度ですが、遅延再生(注2)の障害は軽度で、進行が緩やかなのが臨床的な特徴です。糖尿病性認知症は血糖のコントロールによって注意・集中力を含む認知機能の一部が改善することもあります。
食後の高血糖、血糖の変動が大きいこと、インスリン抵抗性(肥満などのためにインスリンの働きが悪くなること)、脳梗塞など脳血管障害が多発、高血圧、脂質異常症(高中性脂肪血症または低HDL‐C(善玉コレステロール)血症)などは認知機能障害または認知症の危険因子となります。また、高齢者糖尿病における重症低血糖も、認知機能障害または認知症の危険因子です。重症低血糖があると認知症は1.68倍、認知症があると重症低血糖は1.61倍おこりやすくなる報告もありますし、認知症と低血糖は悪循環を形成します。
重症でない軽症の低血糖が認知症を発症させるかどうかは明らかでありませんが、短期的に注意力障害、記憶障害などの認知機能障害をきたすことがあるので注意が必要です。
空腹時血糖よりも食後高血糖と血糖の日内変動が大きいこと、低血糖を繰り返すことが認知症の発症リスクとなるので、糖尿病を良好にコントロールすることが認知症の発症予防や進行抑制には重要になります。
認知症を早期に発見するためには、交通機関を使っての外出、買い物、調理、金銭管理など(手段的ADL)の障害が手がかりになります。残薬が多くなるなどの服薬の管理や、インスリン治療中の患者で誘因もなく高血糖になったなどインスリン注射の自己管理(遂行/実行機能)の障害も認知症を疑います。また、無気力、無関心、うつなどの心理状態の悪化も認知症の早期発見の手がかりになります。
認知症の診断は社会生活の障害があるかどうかが重要なポイントになりますので、家族から話を聞くことも必要です。
認知機能障害のスクリーニング(ふるい分け)検査としてミニメンタルステート検査(MMSE)(認知症疑いは23点以下)、改訂長谷川式認知症スケール(HDS‐R)(認知症疑いは20点以下)などが一般的に行われます。また、糖尿病患者で障害されやすい遂行/実行障害を比較的短時間に判定するのに時計描画試験が有用です。(図2)
※注釈
注1 遂行/実行機能の障害:交通機関を使っての外出、買い物、調理、金銭管理など(手段的ADL)の障害で、段取りがうまくいかず、自己管理が困難になること
注2(言葉の)遅延再生:3つの言葉を覚えてもらい、別の質問を挟んだ後に思い出してもらうこと
発行/萩野原メディカル・コミュニティ |