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暮らしに役立つ 医療のおはなし 78

喘息あれこれ(その3)

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

妊娠と喘息

■妊娠が喘息に及ぼす影響

喘息患者さんが妊娠すると、喘息の状態はどのように変化するでしょうか…?喘息が改善する患者さんが1/3、不変が1/3、悪化が1/3と言われています。
 悪化する原因としては、お腹が大きくなり横隔膜を押し上げることにより肺が膨らみにくくなったり、胃液が逆流しやすくなったりすること、さらに、妊娠に伴う様々なストレスなどが指摘されています。悪化しやすい時期としては、中期~後期(24~36週)が多いようです。
 なお、悪化する患者さんの中には、妊娠中に薬を使う不安から治療を中断したり、薬を減量したりしたために喘息症状が悪化している方が多いと言われています。ですから、妊娠中に適切な治療を継続していれば、悪化する確率は1/3からずっと小さくなる可能性があります。


■妊娠中に最も警戒すべきは喘息発作

妊娠中に喘息発作が起こると、咳によって頻繁に腹圧が加わるようになり、赤ちゃんによくないことは容易に想像ができます。もっと重大なことは、赤ちゃんが低酸素状態に置かれる危険性です。妊婦が重篤な喘息発作を起こせば妊婦自体が低酸素状態になり、赤ちゃんも巻き添えとなります。妊婦が低酸素状態にまではなっていなくても、喘息発作で過換気になることで子宮に血液を送る血管が収縮し赤ちゃんに十分な酸素が供給されなくなることもあります。こうなると、流産、胎児発育不全、脳障害等の問題が発生する危険性が高まることになります。 もちろん喘息のない健康な妊婦でも、流産・早産、胎児発育不全等は起こることがあり、胎児の2~4%程度の確率で奇形が発生すると言われています。喘息が良好にコントロールされていれば、喘息のない妊婦と同様の出産ができるという報告もあるので、薬を使うことを怖がらずに治療を継続しましょう。

■妊娠と薬

妊婦が「この薬は赤ちゃんに害がないか…?」と心配するのは当然のことです。私たちには、サリドマイド禍(睡眠薬、胃腸薬として販売されたサリドマイドにより、胎児死亡、手足の奇形等が発生)や水俣病(チッソ水俣工場から排出された有機水銀で汚染された魚介類を食べ、脳をはじめとする中枢神経に障害が発生。胎児性水俣病もあり)等の記憶もあり、妊娠中の薬剤使用には警戒心が高くなっています。  
 しかし、気管支喘息に対して使用する薬は、大部分が妊娠中でも使用することが可能です。表1に妊娠中の喘息患者さんに使用できると考えられている薬剤で、当院でもよく使用されるものを掲載しました。薬の副作用を怖がって治療を中断するのは、赤ちゃんを苦しめる喘息発作を招く危険性を高めることになります。  
 喘息と妊娠について正しく理解し、妊娠中もしっかり喘息治療を継続しましょう。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ