人間が生きていく上で欠かせない「呼吸」を司る肺。肺気腫は、大切な肺の機能が衰え、進行すると息切れなどで日常生活に支障をきたす病気です。今回は、肺気腫の特徴と予防(治療)方についてご紹介します。
■正常な気管支と肺
空気の通り道である気管支は、図-1のような形をしています。のどぼとけからまっすぐおりる部分が気管、胸の中ほどで左右に分かれて気管支となります。気管と気管支には軟骨が入っており、そのおかげで丸い形を維持しています。気管支は枝分かれしながら細くなっていきます。細い気管支の先には肺胞と呼ばれる丸い袋が沢山ついており、身体に酸素を取り入れ、二酸化炭素を捨てるのに大切な働きをします。肺胞の周りには血管が網の目のように走っており、この構造があるために空気中の酸素を血液の中に取り入れることができるのです(図-2)。
■肺気腫の肺の状態
肺気腫とは、肺胞の壁が壊れ、たくさんの空気がたまった状態になる病気です。肺胞と肺胞の間の壁が壊れて大きな空間になり(図-3)、正常な肺にくらべて膨らんだ状態になってしまうのです。一度こうなってしまうと、もとに戻すことはできません。傷んだ肺を守りつつ、残った肺の働きを維持することが治療の目的になります。
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(1)二酸化炭素と酸素の交換が悪くなる
肺の働きは、身体の中の二酸化炭素を身体の外に捨て、空気中の酸素を血液の中に取り込んで全身に送ることです。この働きを円滑に行うためには、肺胞が網の目のように血管で包まれていることが重要になります。ところが、肺気腫になると、この大切な構造が壊れてしまうために、二酸化炭素と酸素の交換が悪くなって、息苦しい等の症状が出るのです。
(2)息が吐き出しにくくなる
気管支を丸い形に維持している軟骨は、気管支が枝分かれするにつれ形を変えてゆき、細い気管支の部分ではなくなってしまいます。しかし、細い気管支のまわりにはたくさんの肺胞があり、常に縮もうとしています。この縮もうとする力が、気管支の壁を外側に引っ張るために、細い気管支はぺちゃんこにならずにすみます。肺気腫の肺では、肺胞が壊れているために引っ張る力が弱くなり、細い気管支を広げる力も弱まります。そのために、息を吐こうとして外から圧力が加えられると簡単につぶれてしまい、息を吐いている途中で気管支が閉じてしまって、肺胞の中にたくさんの空気が残ってしまうのです(図-4)。
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(3)横隔膜が動きにくくなる
人間は息を吸うとき、横隔膜を使っています。横隔膜は、上向きに凸型をしたドーム状になっており、息を吸うときは下にさがって胸を広げ、それにつられて肺も広がり空気が入ってきます。息を吐くときは、上にあがって肺を縮め、空気を外に出します。肺気腫では、ふくらみすぎた肺が横隔膜を下に押し下げ、直線に近い形になってしまうため、この呼吸運動が円滑にできなくなります。
(4)慢性気管支炎・気管支喘息の合併
肺気腫が進むと、肺胞が壊れるだけでなく、太い気管支も傷んでくることが少なくありません。そのため、粘液などを作る分泌線も過剰に発育し、慢性的な咳・痰や喘鳴などの症状が出ます。
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■肺気腫の治療と禁煙の意義
肺気腫を患う方のほとんどの原因がタバコです。人間は、年齢とともに1秒間に吐ける空気の量(1秒量)が徐々に少なくなります。喫煙者のうち、タバコの影響を受けやすいタイプの人は、老化+タバコの影響のダブルパンチで1秒量が急速に低下してして、肺気腫になっていきます。しかし、たとえ何十年も吸い続けた人でも、タバコをやめた段階で、1秒量の減少スピードは今まで喫煙していなかった人とほぼ同じになります(図ー5)。肺気腫と宣告されてからでも、禁煙すれば楽に生活を送れる期間が長くなり、長生きもできるようになるのです。肺気腫の最も有効な予防(治療)法はタバコを今すぐやめることだと言えます。
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