暮らしに役立つ医療のおはなし 12

膵臓の病気(2) わたひき消化器内科クリニック 綿 引 元

3膵癌とは

■膵癌は増えている
 日本では膵癌の死亡者数は年間1万7000例を越えています。この数は全ての悪性新生物の死亡者数の中で、男性では6位、女性では7位に位置することから、膵癌は死亡率の高い癌と言えます。さらに、年度別の発生数と死亡数がほぼ等しいことから、治る患者さんはきわめて少ないのが現状です。長期生存例が外科的切除例でかつ腫瘍経が2cm以下の症例であることから、腫瘍経が1〜2cm以下の早期膵癌の診断法の確立が重要な課題になっています。

■糖尿病は膵癌の高危険群
 疫学調査からは、膵癌の高危険群として
(1)癌の家族歴があるもの
(2)既往に胆石、糖尿病、膵石があるもの
(3)タバコ、アルコール、コーヒーなどの嗜 好品を好むもの
などがあげられており、特に糖尿病、膵石症、女性の喫煙者は高リスク群と考えられています。

■膵癌は特徴的な症状がない

  膵癌の全国登録調査報告をみると、膵癌に特有の症状はなく、腹痛や黄疸、体重減少、腰背部痛などが主な症状といえますが、症状のある例のほとんどは進行癌です。なお、切除できた症例の中では15%は無症状で、さらに健康診断とその後の精査で発見された例が約10%を占めており、エコーやCTなどの画像診断によるスクリーニング検査(拾い上げ診断)が重要だといえます。膵酵素(アミラーゼ、エラスターゼIなど)や腫瘍マーカー(CA19-9、CEAなど)の血液検査によるスクリーニングでは精度としてはいまひとつで、現状では早期癌に対する決定的な血液検査はないと云えます。
  なお、膵癌の患者さんの30%に耐糖能異常(糖尿病)がみられることから、糖尿病の患者さんは、エコーなどの画像検査を定期的に受ける必要があると言えます。

■エコーやCTなどの画像診断が膵癌診断のきっかけになる

  画像診断の進歩は著しく、癌病巣の最初の発見はエコーによるものが40%、CTによるものが40%を占めています。一般に日本ではエコーやCTで異常があればERCPを行い、同時に膵液の細胞診や膵管鏡を用いた観察を行い情報を得ていました。しかし、最近ではERCPではなく、患者さんに負担の少ないMRCPによる診断が普及してきており、ERCPに劣らない膵管像や胆管像を描出できることから、有用な検査法になってきています。
図1・2は、エコーと、ERCP(内視鏡的膵胆管造影法)・MRI・MRCPを用いて撮影した膵臓の様子です。腹部超音波検査(エコー)は、超音波を発振するプローブを用いて膵臓や膵管の状態等を観察します。MRCPは、胃カメラと同様に内視鏡を飲んで膵管と胆管をX線で描出します。MRIはCTと同じような検査で、磁力を使用し体幹の断層像を撮影します。MRCPはMRIを用いて立体的な画像を撮影する検査です。
  少しでも早期に膵癌を診断していくためには、腹痛や糖尿病など膵の異常が少しでも疑われる患者さん(膵癌のハイリスク群)にMRCPやERCPなどの膵管系を画像で撮影する検査を受けていただくべきでしょう。膵臓の検査の詳細については次号で詳しく紹介します。

■膵癌の治療
  膵癌の治療は外科的切除が基本ですが、その治療成績は満足すべきものではありません。比較的予後のよい嚢胞腺癌や島細胞癌などもふくめた膵癌全体でも5年生存率は20%以下ですし、大多数を占める通常型の膵癌では5年生存率は10%前後です。進行した胃癌や大腸癌でさえ5年生存率は60%前後ですから、残念ながらきわめて予後が悪い癌だといえます。しかも、切除できた膵癌でこの成績ですから、半数以上を占める非切除例の予後は押して知るべしでしょう。切除不能例や再発例に抗癌剤による化学療法や放射線療法なども行われていますが、今のところ欧米も含めて決定的に有効な方法はないといえます。





発行/萩野原メディカル・コミュニティ