暮らしに役立つ 医療のおはなし 13
睡眠時無呼吸症候群 やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次

 山陽新幹線の居眠り運転で注目された睡眠時無呼吸症候群(SAS)。日本では、患者さんは120万人いるとされ、30〜60歳の男性の4%、女性の2%が睡眠時無呼吸症候群で日常生活に支障がでていると言われています。患者さんの内、鼻マスクを使って陽圧を加える呼吸療法を必要とする方が30万人いると推定されています。

■睡眠時無呼吸症候群とは 
 睡眠中に呼吸が10秒間以上停まる無呼吸が繰り返しておき、一晩7時間の睡眠で30回以上、あるいは1時間あたり5回以上無呼吸が起こるものをいいます。
  大きないびき、睡眠中の無呼吸(家族による目撃)、日中のつよい眠気などが主な症状で、重症の患者さんでは、知力の低下、性格の変化、幻覚などの症状がでてきます。その結果、交通事故、職場の事故、会議中どうしても眠ってしまう、仕事の効率の低下などをきたします。新たな道路交通法では、重度の眠気を呈する睡眠障害は運転免許の拒否・取り消しの理由になっています。
  無呼吸が繰り返しておきると、昼間の眠気だけにとどまらず、血液中の酸素のレベルが下がり、心臓や血管に大きな負担がかかり、高血圧症や動脈硬化がすすみ、狭心症、心筋梗塞、不整脈や脳卒中が起きる危険が高くなります。ですから、睡眠時無呼吸症候群は命にかかわる病気と言えます。
  睡眠時無呼吸症候群の患者さんを長期間観察した結果、57%で新たに高血圧症、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳血管疾患(脳出血、脳梗塞)が発病したといわれております。


■睡眠時無呼吸症候群はなぜ起こる?
 

 睡眠時無呼吸症候群には閉塞型、中枢型、混合型の3つの型があります。その95%は閉塞型です。閉塞型の睡眠時無呼吸症候群では、のどの空気の通り道が狭く、睡眠中につぶれやすくなるため閉塞して空気が通らなくなります(図-1)。肥満、舌や扁桃腺が大きい、あごが小さい、鼻が曲がっている(鼻中隔湾曲症)などで鼻の通りが悪いなどの人に発症しやすい傾向があります。

■睡眠時無呼吸症候群が疑われたら
  日中の眠気の測定には、「エポワースの眠気点数」という簡単な問診形式のテストを行います。この点数が11点以上だと睡眠時無呼吸症候群が疑われ、以下の検査を行います。

(1)スクリーニング法/夜間睡眠中の口と鼻での呼吸、胸郭(肋骨)の動き、お腹(横隔膜)の動き、酸素レベル(指先にセンサーを付けて測ります)が測定できる携帯式の器械があります。これを自宅で自分でセットして、睡眠中に記録をとり、医療機関で解析します。この検査では、無呼吸の程度が大まかに分かります。この検査の結果、無呼吸の程度が強い患者さんでは次の段階の検査に移ります。

(2)睡眠ポリグラフ法/正確に診断し、治療法を決めるためには、入院して睡眠中の詳しい検査を行う必要があります。脳波、眼周囲の筋電図、喉の筋電図(喉の筋肉の活動を見る)、口と鼻での呼吸、胸郭(肋骨)の動き、お腹(横隔膜)の動き、血液中の酸素レベルなどを睡眠中に連続的にモニターし、コンピュータで解析します。無呼吸のタイプ、睡眠の深さとの関係など詳細に睡眠中の無呼吸の状態を解析できます(図-2)。

■治療法
(1)内科的治療
/肥満の人で、無呼吸の程度が軽い場合はとにかく減量です。その他、無呼吸を悪化させる要因であるアルコール、睡眠薬、タバコなどを中止することも大切です。無呼吸の程度が強い人は、同時に?の治療法が必要となります。

(2)経鼻的持続陽圧呼吸療法/通称nCPAP療法と呼ばれているものです。鼻にマスクをつけ、閉塞型無呼吸の起こる上気道(のど)に鼻から空気を送って気道を拡げる方法です(図-1)。毎夜この装置(図-3)をつけて睡眠します。これは、閉塞型睡眠時無呼吸の最も有効な治療法です。月一度外来通院すると、保険が適応となります。

(3)耳鼻科的手術
/のどの奥を拡げ、肥大した扁桃腺を摘出する手術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)があります。その他、レーザーを用いた手術法があります。これらの効果について評価はまだ定まっていません。

(4)口腔内装具
/軽症の閉塞型無呼吸の患者さんやnCPAPがどうしても出来ない(圧迫感などによって)患者さんが対象となります。マウスピースで下あごを一定の距離前に移動させ、舌の後ろのスペースを拡げるものです。この治療法はまだ保険適応となっておりませんので、自費でマウスピースを作ることになります。





発行/萩野原メディカル・コミュニティ