呼吸器なんでもQ&A Vol.7 

やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次

自分の身体のことだけど、わからないことが実はいっぱい。読者の皆さんから寄せられた内科・呼吸器科に関する素朴な疑問に柳瀬先生が答えます。

■突然の胸の痛みについて
Q. 20代の学生です。勉強中に突然、右胸のあたりに鋭い痛みを覚えました。しばらく横になっていたら痛みは弱くなったのですが、原因は何でしょうか?
A. 自然気胸が最も考えられる病気です。自然気胸は若くて細身の男性に発症しやすいと以前から言われてきましたが、栄養状態の「改善」した最近では必ずしも細身の方だけでもないようです。肺の表面に破れやすい風船のような嚢胞があり、嚢胞が破裂することで発症します。嚢胞が破裂すると肺は「パンク」した状態になり、急速に縮んでいきます。その結果、胸痛や呼吸困難や咳といった症状が出現します。破裂する原因はよくわかりませんが、気圧の変化が関係しているとも考えられています。運動は直接には関係がないようで、約50%の患者さんは安静時に発症します。
 症状が出現したらすぐに医療機関を受診すべきです。病状が進行すると酸素不足になったり(呼吸不全)、胸の中で出血したりする場合があり(血胸)、緊急の処置を要することもあります。
 治療は重症度によって異なります。軽症の場合は経過観察するだけでよいのですが、中等症以上になれば、指の太さくらいのチューブを胸の中に挿入して漏れた空気を抜いて肺を膨らめなければなりません。最近ではこうした処置に引き続いて破裂した嚢胞を切除する手術療法が以前より積極的に行われています。以前はメスで広い範囲を切開して行う開胸術が必要でしたが、最近は小さな切開創で済む胸腔鏡による手術が主流となり、患者さんの負担は非常に軽減されているからです。手術しない場合の再発率は初回の気胸で40%、二回目の気胸で60%、三回目の気胸で80%と言われています。手術療法を受ければ、再発率は数%に減少します。

■息切れについて

Q. 70代の父のことです。最近、家の中でちょっとした動作をしても息切れをするようになり、動きたがりません。病気の兆候でしょうか。若い頃から喫煙の習慣があり、現在でも1日1箱以上吸っています。
A. 肺気腫、心不全、狭心症さらに肺の血管がつまってしまう肺血栓塞栓症などが考えられます。タバコに最も関係あるのは「肺気腫」です。タバコが肺に与える悪影響は肺癌だけではありません。1日1箱の喫煙を30年ほど続けると肺気腫になる危険性が高くなります。
 肺気腫になると、体を動かしたときに息切れを感じるようになります。最初は、坂道や階段を上ったり、荷物をもって歩いたりするときだけ息切れを感じますが、病気が進行すると家の中でトイレに行くだけで息切れを感じたり、さらに進むと会話や着替えも息苦しくなってきます。
 こうした息切れを感じたら早く医療機関にかかって検査をしてもらう必要があります。レントゲンの検査と肺活量の検査を受ければ診断は簡単です。
 肺気腫の肺は、残念ながら現代の医学では元の正常な肺に戻すことはできません。しかし、症状を楽にすることはできます。呼吸リハビリで呼吸法を修得したり、呼吸筋を鍛えると息切れを改善できます。また、各種の薬を組み合わせることで、休み休みでないとできなかった行動を続けてできるようになることもあります。治療の前提は禁煙で、タバコによって進行していた病気にブレーキをかけることが大切です。