暮らしに役立つ医療のおはなし 22 

心筋梗塞の話(その2)〜心筋梗塞の症状〜 やなせ内科呼吸器科クリニック 循環器担当 山下 恭典

■はじめに
  前回は心筋梗塞という病気の原因や成り立ちを解説しました。今回は実際になってしまった場合にどんな症状が出るのかを説明したいと思います。

■基本は胸痛
 
心筋梗塞の基本症状は激しい胸痛です。実際の外来診療の現場でみると、胸痛を起こす病気の種類はかなり多く、消化器疾患や呼吸器疾患や(整形)外科的疾患を原因とする胸痛も多くあります。しかしそれらの中で最も緊急性が高く、見逃した場合に患者さんの命にかかわる病気の最たるものが心筋梗塞です。胸痛が主な症状ではない場合も少数ですがあり、高齢者や糖尿病の患者さんの場合、全く無症状なのに心筋梗塞が起こっていたという例もありますし、胸痛ではなく呼吸困難や息切れが主症状のこともあります。

■心筋梗塞の胸痛の特色
(1)胸痛の出方は?
 心筋梗塞の場合、胸痛が突然起こるのが特徴です。心筋梗塞は心臓の血管(冠動脈)が血栓で詰まって起こる病気です。ですから症状も血管が詰まると同時に突然始まります。心筋梗塞を経験した患者さんに聞いてみると、ほとんどの方が症状の始まった日時を分単位まで明確に覚えています。症状が少しずつ出はじめていつ始まったのかがはっきりしない胸痛の時には、心筋梗塞の可能性は低くなります。
(2)胸痛の場所は?
 一般に、心臓は胸の左側にあると思われていますが、実際には胸のほぼ真ん中近くにあります。従って、心筋梗塞の胸痛も、胸の真ん中付近に多いといわれています。症状の出る範囲はやや広く、少なくとも手のひらの大きさ以上の範囲が痛みます。一点が痛むような非常に狭い範囲の胸痛は心筋梗塞ではないと考えるのが医師の常識です。ただし痛みの場所で注意が必要な場合もあります。みぞおちの痛みを胃痛だと思って消化器内科にかかったら心筋梗塞だったとか、左肩が急に痛んで整形外科にかかったら心筋梗塞だったなどという例もまれにあります。中にはあごや歯が痛む場合もあるようです。

(3)胸痛の内容は?
 心筋梗塞が起こったときの胸痛の内容は、患者さんに聞いてもいろいろな表現をされます。締め付けるような痛み、圧迫されるような痛み、押しつぶされるような痛み、胸焼けのもっとひどいような感じなどの表現をされることが多いようです。チクチクと痛む、キュッと痛む、ズキンと痛むなどの、鋭くて持続時間が短い場合は心筋梗塞でも狭心症でもないと考えるのが普通です。
 

(4)胸痛の持続時間は?
 心筋梗塞の痛みは、詰まった血管が運良く再開通しない限り持続します。基本的には持続時間は30分以上、治療を受けない限り数日続くこともあります。同じ心臓発作の系統でも、狭心症の場合は胸痛の持続時間は短く、数分から長くて15分程度で胸痛は消えていきます。持続時間の違いが心筋梗塞と狭心症の診断に重要となるわけです。

■胸の痛みに伴う症状

 心筋梗塞の胸痛によく合併する症状は、冷や汗、吐き気、顔面蒼白などです。特に冷や汗はよくみられます。また心筋梗塞の胸痛は激しいために、「このまま死んでしまうのでは?」という激しい不安感を伴うことも多いようです。
(1)前ぶれの症状はあるか?
 心筋梗塞の発症前に何らかの前ぶれがあることもありますが、そられが見られるのは半数以下です。半数以上の方は全く今までに何の症状も無く、ある日突然急に激しい胸痛に襲われるようです。前ぶれがある場合には、今までに見られなかった狭心症の症状(数分から15分程度の胸痛)が見られるようになり、その頻度や症状の程度が悪化していって、ある日心筋梗塞が起こるというパターンです。以上をまとめると右の表のようになります.


■心筋梗塞を疑うような胸痛が自分や家族に見られたら

  ご自身やご家族に前述のような心筋梗塞を思わせる激しい胸痛が起こってしまったら、どう対応すればよいでしょうか。以下に現実的と思われる対応を挙げてみます。
(1)直ちに大きな病院に行く
 できれば救急車で搬送しましょう。多少大げさに感じても、心筋梗塞でなかったときには笑い話ですみます。本物の心筋梗塞なのに自宅で様子を見てしまうことは治療上で大変不利であるだけでなく、生命に危険を及ぼします。
(2)胸痛を起こしている人を一人にしない
 心筋梗塞の場合には救急車を待っているうちに病状が急変して心臓マッサージなどの救命処置が必要になることもあります。誰か一人はそばにいること(できれば少しでも救命処置の知識がある人)が大切です。
(3)顔を横に向け楽な姿勢で救急車を待つ
 嘔吐をすることもあるので、嘔吐物を吸い込まないよう顔は横に向けて休ませます。ネクタイやベルトは緩め、本人がなるべく楽な姿勢で救急車の到着を待ちましょう(場合によっては上半身を起こしたほうが楽なこともある)
(4)電話で症状を伝える
 119番に電話する時、「胸を痛がっている」「胸を押さえて苦しがっている」など具体的な症状を伝えること。胸痛の患者であることが救急隊に伝われば、対応可能な病院を探しながら救急車が来ることができるので、後の対応が早くなります。
 次の機会には診断、検査、治療について紹介します。




発行/萩野原メディカル・コミュニティ