暮らしに役立つ医療のおはなし 23 

便秘と下痢(その3) わたひき消化器内科クリニック 綿 引 元

■下痢について
  下痢とは、水分が多く含まれた泥状便、水様便が1日に数回起きる状態を言います。正常な便は、半ねり状またはバナナ状で70〜80%が水分ですが、水分量が90%をこえると水様便になります。
 下痢には急性の下痢と慢性の下痢があります。急性の下痢は一過性ですが、慢性の下痢は2週間以上にわたって続いたものを言います。下痢は嘔吐と同じ様に、身体に害になるものを早く外に出そうとする反射作用として、身体を守るための大切な働きとなることもあります。 

■下痢のメカニズム

  下痢が発生するきっかけはさまざまです。水分は腸の粘膜から吸収されますが、腸に送られた内容物で水分の吸収が妨げられて起こる「吸収障害による下痢」、細菌の毒素により腸管壁から電解質や水分が過剰に分泌される「分泌亢進による下痢」、便を送り出すための腸管の蠕動運動が、精神的なストレスなどによって激しくなり、腸粘膜の水分の吸収が妨げられる「腸管運動亢進による下痢」があります。その他、日本人では乳糖不耐症が有名ですが、「消化吸収障害による下痢」もあります。

■下痢の原因

 以下に、下痢を起こす原因について挙げてみます。
(1)食べ物や飲み物が原因で下痢を起こします。
 暴飲暴食や脂肪の多い食事を取り過ぎると下痢することがあります。特定の食物にたいするアレルギー反応によっても下痢を来します。アレルギー反応の原因になる食物は穀類や魚介類など様々です。
 日本人で多く見られますが、牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素が欠乏しているために、牛乳を飲むと下痢を起こす人がいます。また、牛乳を飲み過ぎたり、お酒を飲み過ぎても下痢を起こします。
(2)細菌やウイルス、病原微生物が原因になります。
 風邪のウイルスが腸に達した時に起こす感冒性腸炎のほか、東南アジアなど発展途上国などで生水を飲んだりすると、その中に含まれている弱毒性の細菌により下痢を起こす「旅行者下痢症」があります。この場合、現地の人には耐性があるため発症せず、旅行者だけに下痢が起こります。その他、食中毒の原因にもなる病原性大腸菌や赤痢などの細菌感染によっても下痢を起こします。
(3)その他、身体が冷えたり、ストレスなどが原因で下痢を起こします。

■下痢を起こすおもな病気
 
急性下痢を起こす病気には、サルモネラなどの感染性腸炎と、循環障害による虚血性腸炎などがあります。感染性腸炎には、サルモネラや病原性大腸菌などの細菌感染症、一時期マスコミをわかせた毒素を伴う腸管出血性大腸菌(O-157)、抗生剤を服用することで腸内細菌の交代現象によって起きる抗生剤起因性腸炎、さらに、ウイルス感染にもとづく感冒性腸炎などがあります。
 慢性下痢を起こす病気には、感染性の疾患である腸結核やアメーバ赤痢、炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎や最近増加傾向にあるクローン病などがあります。さらには、前々号で説明した過敏性腸症候群などがあります。

■下痢の対策と治療

(1)下痢の時の食事
 下痢を起こした場合、発生の原因となったものを排出し、腸管内を空にすることが大切になりますので、食事は控えめにするのが基本です。ただし、水分の補給は十分にしましょう。食事をとる場合は少量にして、消化の悪い食品や腸管を刺激する食品は控えましょう。
(2)脱水症対策について
 下痢によって体内から急激に水分や電解質が失われますので、特に乳幼児や高齢者では、下痢が続くと脱水症状を起こしやすくなります。十分に気をつけて水分を補給しましょう。水分の補給には、ナトリウムやカリウムなど電解質の含まれたスポーツドリンクなどが適しています。
(3)下痢の治療
 下痢の原因が腸管の運動により起こっている場合は、下痢止めや抗コリン薬を使用し、蠕動運動と腸管からの水分の分泌を抑えます。原因が病原性細菌による場合は、腸内細菌のバランスを整える乳酸菌製剤を用いますが、発生の原因になった腸内の毒素や細菌を排泄させるために下痢止めは使いません。激しい腹痛や嘔吐などのつらい症状に対しては痛みを止める抗コリン剤などをやむなく使用しながら、点滴など脱水症の対策をしていきます。





発行/萩野原メディカル・コミュニティ